ここからfrom現場 子どもたちに楽しい時間を 「院内家庭教師」の横浜市立大「one by ONE」

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 コロナ禍で外部との接触が一段と難しくなった入院中の子どもたち。そんな子たちに、「院内家庭教師」と名付けた学習支援のボランティアをしている大学生の団体がある。横浜市立大学のボランティア団体「one by ONE」だ。彼らが活動する背景とその思いを取材した。【上智大・古賀ゆり】

 同団体は2018年12月設立で、横浜市立大学の学生を中心に現在65人が所属。子どもごとに週に1回、1時間程度、学校から出る宿題を手伝ったり、退院後に円滑に学校に戻るための勉強をサポートしたりしている。現在は五つの病院で小学生2人、中学生3人、高校生1人の合計6人をサポートしている。

 設立したのは同大学医学部医学科6年の前田憲人さん(29)だ。前田さんは小学生の時に半年ほど入院した経験がある。一人で過ごす時間が多く孤独を感じながら生活した経験から「入院している子どもたちに、自分のことを気にかけてくれている人がいるということを伝えたい」と思い、団体を設立したという。

 入院する子どもたちは、病状などにもよるが多くの場合は面会に来る家族や、医療関係者など限られた人にしか会えず、学習機会を持ちにくい。入院が長期にわたると、退院後に学校の勉強についていけなくなったり、進級が難しくなったりするケースがある。共同代表を務める同学科6年の光山瑞穂さん(25)によると「学校ではここまで勉強が進んでいる」と不安を訴えてくる子どもも多いそうだ。

「チーム医療の一員」

 病院での学習で本来、大きな役割を果たしているのは学校教育法に基づいて設置される院内学級だ。教師は運営に尽力しているが、すべての病院に院内学級が設置されているわけではない。院内学級への転校手続きも簡便になってきているが、入院期間などの事情で通えない子もいる。また院内学級に通っていても、宿題などを手伝ってほしい子も多い。同団体が支援対象としているのは、こうした子どもたちだ。

 そして、学習支援に加えて前田さんや光山さんは「子どもたちにとって楽しい時間にすること」を、特に重視している。そのため「勉強を教えている時間よりも子どもたちの雑談に付き合っている時間の方が長いこともある」そうだ。子どもと接する際は、病気を意識しないよう心掛けているという。

 実際に勉強のサポートを受けた高校1年生の生徒によると、「入院中は学習環境から離れていたため、大学生が勉強を教えてくれる1時間はとても大切な時間だった」そうだ。

 18年からこれまで受け持ってきた子どもは、小1から高3まで、累計で45人に上る。しかし、はじめから活動が順調だったわけではない。

 前田さんによると、活動を行う上で当初最も苦労したことは、病院側から信頼を得ることだったという。患者の個人情報保護や感染症予防の観点から簡単には病棟に受け入れてもらえず、また継続的に支援できるかどうかという点も病院側から疑問視された。

 しかし、前田さんの熱意に動かされた、同大学付属病院がボランティア受け入れに踏み切ると、受講した子どもの評判が良かったことから、次第に別の子どもたちを受け持たせてもらえるようになった。

 前田さんによると、以前、医師の方に「皆さんはチーム医療を行う上でのチームの一員だと思っています」と言ってもらえたことがあるという。その言葉がうれしくて、活動を行う際のモチベーションになっているそうだ。

逆境でも広がる活動

 病院でボランティア活動を行う団体は数々あるが、面会禁止などの厳しい措置が取られた結果、多くの団体の活動は停滞した。社会とのつながりを持ちにくい子どもたちが、一段と孤立する懸念があった。しかしそんな中でも同団体の活動は広がりを見せている。

 感染予防のため学生が病院を訪れることはできず、学習支援はオンラインになった。しかし病院を訪れなくても活動することができるようになったため、県外など遠方の病院に入院している子どもにも対応できるようになった。また学習支援に加えて、入院中の子どもたちとその家族が思い出を作る機会になるようなイベントも21年3月から3カ月に1回のペースで開催している。

 そのきっかけは、入院中の子どもとその家族から寄せられた「コロナ禍によって、家族全員での面会や入院中の子どもの外出が難しくなり、家族の思い出を作ることができなくなってしまった」という悲痛な声だ。同団体では、これまでにオンラインで似顔絵イベントやクリスマスオーナメント作りなどを実施してきた。イベントの内容は、イラストや裁縫など団体のメンバーそれぞれの強みを生かしたものとなっている。

 メンバーの同学部看護学科2年の中道陽菜さん(19)は「イベントで作ったものを宝物にすると言ってもらえるとやりがいを感じる」と語る。今後もオンラインでのイベントを継続し、勉強をサポートする子どもの人数もさらに増やしていきたい考えだ。

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