学生記者の経験を研究生活に生かす 日大准教授・小副川琢さん

大学で授業を行う小副川琢さん=静岡県三島市の日大国際関係学部で、田野皓大撮影 仕事訪問

 毎日新聞東京本社版の紙面「キャンパる」は1989年の創刊以来、大学生が取材・記事執筆を行ってきた。社会に出て、さまざまな分野で活躍する「キャンパる」卒業生たち。今回は、日本大学国際関係学部准教授で中東政治について研究する小副川琢(おそえがわたく)さん(52)=95年度(第7期)卒業生=を訪問。「キャンパる」記者としての活躍ぶりや、研究者の道に進む原点となった学生時代について話をうかがった。【日本大・田野皓大(キャンパる編集部)】

学生生活の柱の一つ

 小副川さんは高校時代から日本政治に関心があり、明治大学政治経済学部に入学した。そんな小副川さんが「キャンパる」に入会したのは2年生になる直前の春休み。実家が毎日新聞を購読していたことから、もともと「キャンパる」の紙面を読んでおり、「さまざまな学生がいて面白そうだ」という理由で入会したという。

 「キャンパる」には3年余り在籍し、4年時にはリーダー役のキャップを務めた。「いろいろな考え方を持つ人がいて、記事のテーマや内容に関する意見集約をするのが大変だった」と振り返る。

 「ゼミ、バイトに並んで学生生活の大きな比重を占めていた」という「キャンパる」での活動。政治問題への関心の強さから、国内外の政治情勢に関する記事を次々に執筆した。

手間を惜しまぬ取材が特徴

 特に印象に残っている取材は、94年7月に北朝鮮の金日成主席が死亡したことを受けて緊急実施した、学生の意識調査だという。26大学71人の学生に対し、北朝鮮のイメージや歴史認識などについて、仲間と手分けしてアンケート調査を行った。

 小副川さんの取材は、この記事に見られるように手間を惜しまず丹念に成果を積み上げる手法に大きな特徴がある。内政問題でも、「55年体制」と言われた戦後の保革対立政治に終止符を打った保革連立の村山政権発足時には、政権に対するイメージや首相の選び方などの意識調査を34大学250人の学生に実施した。小副川さんは「現在のようにインターネットが普及していない中で、アンケートは対面で行うしかなく、さまざまな学生に直接話を聞きに行くのが大変だった」と当時の苦労を語る。

 筆者自身、ネットを用いたアンケート調査の取材を行ったことがある。現在の調査はスマートフォン一つで手軽に行えるが、スマホなしの対面取材では、取材対象者の確保や実際の取材、そして回答結果の集計にどれだけ時間と手間がかかっただろうと大変驚いた。

 数多くの人と会い、話を聞き出す取材を重ねた小副川さん。人に話を聞く際の話の運び方やマナーについて考えることが多く、それが後の大学院時代や社会人になってからの生活に役に立っているという。

中東に単身渡航、魅力にのめり込む

 現在の専門分野である中東に関心を持ったきっかけは、大学1年の時に明治大学の公認部活である海外渡航研究会に入会したことだった。活動内容は、各自が海外に行き、その成果を報告すること。イスラエルに行った先輩に「平和維持の問題を常に考えていないと、自分の命も維持できない」という話を聞かされた。日本とはあまりに異なる中東独特の環境に驚き、関心を抱いたという。2年生の夏に1人でシリア・ヨルダンに渡航した。2週間の滞在で、文化の多様性と現地の人々の優しさに魅了されたという。

 その後、中東を知るには歴史、特にかつて中東を支配していたオスマン帝国について知りたいと思い、同帝国の中心だったトルコに2度渡航した。渡航を重ねる中で、「中東は、国際政治を学ぶ上で世界が無視できない事例の宝庫」であることに気づき、さらに中東にのめり込んでいく。

大学時代の思い出話を語る小副川琢さん=静岡県三島市の日大国際関係学部で、立教大・宇野美咲撮影

研究者の道へ

 大学卒業後、中東地域の政治情勢について学びを深めるために慶応大学の大学院に進学。アラビア語の習得にも努めた。修了後、シリア・レバノンの現代政治の研究を志したが、当時の日本には同エリアの現代政治を専門にする研究者はおらず、海外留学を決意。大学院時代に使用した文献リストから海外の研究者に手紙を書き、返事をくれた研究者の一人が所属していたイギリスのセントアンドルーズ大学の博士課程に進んだ。

 イギリスの北部、スコットランドの北海に面した田舎町で99年から約4年間寮生活をした。当時の生活については「ほとんどの時間を研究に費やし、ロンドンの公文書館まで列車で片道6時間かけて資料を探しに行ったこともよくあった」と懐かしそうに語る。

 2004年の同大博士課程修了後は、研究者としての道を歩んだ。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の特任研究員や、在シリア日本大使館の書記官などを歴任し、19年から日大国際関係学部准教授として、中東研究のほか国際関係論の講義を行っている。

 学問の道を選んだ理由については「中東の魅力にどっぷりはまってしまい、大学院へ進んだ後には、研究の道しか選択肢がなかった。莫大(ばくだい)な石油資源を背景に国際社会に強い影響力を持ち、国際関係論の見地から見て学ぶべき事例が多い中東を、もっと知りたいという気持ちに導かれて歩んだ生活だった」という。

「好きなことを見つけて」

 日大では、未来を生きる学生の目線に立って、中東をはじめとする国際情勢の見通しを伝えるよう努めているという。イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区侵攻、シリアのアサド政権の崩壊など、中東は今日でも世界有数の紛争多発地帯だ。「原油の輸入で中東地域に依存する日本が中東を学ぶ意義は大きく、目が離せない」と小副川さんは説く。

 新学期が始まって日が浅い4~5月は、大学生活をいかに過ごすか、多くの学生が模索する時期だ。そんな大学生たちに小副川さんは「何でもいいから自分の得意なことを作ってほしい。得意なことを持つことは将来につながる。とにかく、まずは好きなことを見つけてやってみることが大切だ。そしてそれを外国語で伝えられるようになってほしい。そうすれば視野が広がる」とアドバイスしてくれた。

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