千葉商科大学(千葉県市川市国府台)の正門前にある中華料理店「萬来軒」が、同校の学生によってリレー経営されている。同校商経学部を今春卒業した芹沢孟さん(23)が昨年11月、学内で「学生ベンチャー食堂」を経営した経験を元に、休業中だった同店を復活させ、この4月から後輩がさらに経営を引き継いだ。このユニークな取り組みが可能になった背景や、学生たちの思いを取材した。【日本大・村脇さち】
「学生ベンチャー食堂」とは、経営のノウハウやスキルを在学中から身につけてもらうことを目的に、2011年から実施している同校ならではの起業支援の取り組みだ。応募する学生は事業計画書を提出し、選考を通過した3店舗が1年更新の出店権利を得て、キャンパス内の食堂スペースでそれぞれ営業している。
芹沢さんが20年に同校に進学したきっかけも、オープンキャンパスでこの取り組みを知ったことだった。新型コロナウイルスの感染拡大で思うような学生生活が送れない中でも、2年次にオンライン授業と両立をしながら計画書を作成。選考を突破し、「新天地」という中華料理店を21年11月から1年余り経営した。
その後、台湾留学を経て24年夏に復学した芹沢さん。再度、在学中に店舗経営のチャンスがないか模索している最中に、思いがけない出合いがあった。相談先だった同校の業務支援を手がける事業会社「CUCサポート」から、当時の萬来軒の経営者だった藤ノ木政勝さんが体調不良で休業していること、店を引き継げるかもしれないことを教えてもらったのだ。
1957年開店の萬来軒は、同校の学生や職員がよく利用するお店だった。「いつか行ってみたいと思い続けていたが、実際にはコロナ禍で訪れるチャンスはなかった」と芹沢さんは言う。引き継ぎに乗り気になった芹沢さんだが、面識のない藤ノ木さんの了解を得るのは簡単ではなかった。そこで芹沢さんは「CUCサポート」の助言と支援を得て、同社と共同出資の運営会社を設けるアイデアを提案。藤ノ木さんの心を動かすことに成功した。
「お店の味を再現するのも難しかった」と芹沢さんは振り返る。芹沢さん自身は学生ベンチャー食堂で中華料理での調理経験がある。藤ノ木さんが紙に書き起こしたレシピをもとに、チャーハンや麻婆(マーボー)豆腐など、お店の人気メニューの試作を繰り返した。藤ノ木さんの奥さんや常連だったお客さんにも協力してもらい、営業再開にこぎ着けた。
店の再開を見届けた先代の藤ノ木さんは、今年1月に死去した。芹沢さんは「藤ノ木さんは、お店の上の階の自宅から何回も降りてきて、店の様子をのぞきに来てくれた。一緒に料理を作ろうという話をしていたので、本当に寂しい」と藤ノ木さんをしのぶ。
芹沢さんは4月、中小企業の後継者不足のサポートをすることを目指して金融機関に就職した。「今回の経験が取引先のお店や企業での事業承継の役に立てばうれしい。経験しているからこその提案が、自分ならできるのではないかと思っている」と抱負を語った。
萬来軒の経営は、芹沢さんの後輩である商経学部4年の桑島歌菜さん(21)に引き継がれた。桑島さんは、芹沢さんが学内で経営した「新天地」でのバイト経験があり、萬来軒の営業再開を機に、再びバイトとして芹沢さんを支えてきた。
桑島さんは、地域や学生、職員に愛された町中華だからこそ、この店を残していきたいという芹沢さんの思いを引き継いでいく。また、学生の長期休暇期間に売り上げを上げること、女性や新規のお客さんが入りやすいお店づくりに向けて、宅配系のサービスの導入などにも取り組むことにしている。「初めてのお客さんにも、懐かしさを感じてもらって、もう一度来てみたいって思ってもらえるような雰囲気を作りたい」。桑島さんはそう意気込んだ。