すたこら 「入院」あれば「退院」あり

すた・こら

 「入院」。本来の意味は、病気やケガの治療のため一定期間病院に入ること。しかし、私の周囲で「入院」といえば、「大学院に入る」ことだ。特に文系は、就職に有利になるわけでもなく、研究は当然大変。それでも自ら「入院」するのだから、物好きには違いない。「本当に何かの病気かもね」と院生同士で話す。

 大学院生活は総じて楽しい。一人一人研究テーマが違うので、話を聞くだけでも世界が広がる。趣味が合うのも良い。周囲にこんなに博物館好きがいるのは自分史上初めてだった。ゼミ形式の授業では、単に本を読解するだけでなく、「何がこの本に足りていないか」も議論する。自分の体験や、現実に起きていることも総動員して考える日々は刺激的だ。

 すっかり「入院」生活を満喫しているが、いつかは「退院」しないといけない。問題はいつ、どのように「社会復帰」、すなわち就職するかだ。退院の方が難しいのは、治療のための入院と似ている。「入院」生活が長くなるほど「社会復帰」の難易度は上がるだろう。

 今は、博士課程を目指して修士論文を書いている。自分が知りたいことを追い求める楽しさは何にも代えがたい。とはいえ、不安もある。そもそも入試を突破できるのか、無事博士号をとれるのか、最終的にちゃんと「社会復帰」できるのか、「楽しさ」をいつまでも追っていて良いのか……。正直、「入院」生活は続けたい。今の自分に足りないのは、楽しい「入院」生活を続ける、確固たる覚悟なのだろう。【慶応大院・瀬戸口優里】

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