私の耳は生まれつき左右非対称だ。左耳は少し縦長で、のっぺりとしている感じ。右耳は内縁部の形がごつごつとしていて、肉厚だ。両親や妹や友人の中に、私のような左右非対称の人はいない。どうして私だけ耳の形が左右で大きく違うのか、ずっと不思議に思っていた。
その答えは中学生の頃、思わぬところで判明した。祖父母の家に遊びに行ったある日。テレビを見ながらくつろいでいる私を観察していた祖父が、何かに気づいたようにじっと私の顔を見つめてきた。どうしたのかと聞くと、祖父は私の耳を指さしながらうれしそうに「その耳は福耳だな」と言う。
なぜ左右非対称の耳が「福耳」なのか。祖父は私そっくりの、左右非対称の自分の耳を代わる代わる見せながら自慢げに教えてくれた。「その耳は時々うちの家系に現れるんだ。おじいちゃんのように幸せに暮らせる、運を呼び寄せる耳なんだぞ」
私の耳が左右非対称なのは、遺伝によるものだった。そう知ってから、それまであまり考えてこなかった祖先とのつながりに思いをはせるようになった。祖父いわく、この耳は「食いっぱぐれすることのない耳」なのだという。耳の形が同じ私の祖先は、本当に運に恵まれた人生を歩んだのだろうか。そして私は、これからどんな人生を歩んでいくのだろうか。【東京学芸大・中尾聖河、イラストも】