毎日新聞 2021/2/9 東京夕刊
我が家にはこたつがない。今まで置かれたこともなかった。だからこたつにみかんという「冬の風物詩」は、アニメなどで見かけるだけの非現実的な光景。「あまりに居心地が良すぎて出られない」という友人の悩みも、そんなことあるのだろうか、と半信半疑で聞いていた。
そんな私が“こたつデビュー”を果たしたのは、大学1年生の冬。1人暮らしを始めた友人の部屋に、遊びに行ったときのことだ。「温めておいたから、すぐ入ったら」。彼女のすすめで、初めてその中で足を伸ばした。じわっとぬくもりが伝わり、寒さでこわばった筋肉がほぐれていく。
「これがこたつかあ」。ようやく私もアニメの世界を体験できた。少し興奮したのもつかの間のこと。本当に一度入ると出られない。友人たちと話し込むうちに、気づくとそのまま眠ってしまっていた。翌朝、食べ物で散らかったままのこたつテーブルが、私を骨抜きにしたその威力を物語っていた。
今年の冬も、寒さが厳しい。自宅のリビングに置く良い機会かもしれないと思いつつも、家族に提案できないでいる。オンライン授業との相性が気になってしまうからだ。温まりながら講義を聴くうちに、つい居眠り。寝言が授業中に配信される――。そんな失態をさらし、こたつに八つ当たりする姿が容易に思い浮かんでしまう。【筑波大・西美乃里、イラストも】