2019/05/14 大楽人

モトクロス、命懸け挑む 関西大・久保まなさん

 全日本モトクロス選手権第2戦関東大会が11、12日、埼玉県川越市のオフロードヴィレッジで開催された。今大会レディースクラスで優勝を飾ったのが関西大学3年の久保まなさん。「母の日に優勝をプレゼントできた」と喜びもひとしお。そんな彼女の強さと魅力に迫った。【成城大・風間健】


ダイナミックなジャンプを披露する久保さん=大阪府大東市のライダーパーク生駒で、東洋大・佐藤太一撮影

 モトクロスは、起伏の激しい土壌コースで順位を競うモータースポーツ。30台が横一列に並ぶスタートが特徴で、その瞬間は怖さと緊張とワクワク感が混在した不思議な感覚なのだという。

 モトクロスは、起伏の激しい土壌コースで順位を競うモータースポーツ。30台が横一列に並ぶスタートが特徴で、その瞬間は怖さと緊張とワクワク感が混在した不思議な感覚なのだという。

 時には、坂を飛び出して25メートルプールほどの距離をバイクで飛ぶことも。「レールのないジェットコースターに乗っているような非日常のスリルを味わえる」と魅力を語る。

 久保さんは、モトクロスが趣味だった両親の影響で物心つく前から子ども用バイクに親しんでいた。競技として真剣に取り組むようになったのは小学2年生の時。初めて参加したレースで最下位になってしまい、負けず嫌いだった久保さんは大号泣。「そこまで悔しいなら本格的に始めてみるか?」と、父親から勧められたのがきっかけだという。それから4年後、小学6年生ながら大人がほとんどの全日本モトクロス選手権レディースクラスに初めて出場した。「恐れ知らずだったので、大人たちをどんどん追い抜いてやろうと当時は思っていました」と笑顔で話す。中学生に上がるとモトクロスのチームにも所属。持ち前の負けず嫌いな性格から競技にのめり込み、着実に成績を残していった。

 「モトクロスは命懸けのスポーツ」。久保さん自身も、レース中にバイクが横転し、右肩を脱臼・骨折した経験を持つ。このけがを機に、筋力トレーニングと柔軟運動を欠かさず行うようになった。その後はどれだけ大きなクラッシュでも、重傷を負うことはなくなったそうだ。「体が飛ばされている間、視界がスローモーションになるんです。『あ、私死ぬのかな』とか冷静に考えていたりします」と語る。

トロフィーを手に優勝の喜びをかみしめる久保さん=埼玉県川越市のオフロードビレッジで、風間健撮影

 久保さんの強さは、ストイックさ。モトクロスは整備費や試合会場までの移動費など金銭的な負担が大きい。久保さん自身、早朝にアルバイトをして練習場代を稼ぎながら、昼間は大学で勉強、夕方からはトレーニングに打ち込む忙しい日々を過ごす。また最低でも週に3回はモトクロスコースに足を運び、練習を行っているという。夜更かしせず、朝食も必ず取るなどアスリートとして自己管理を徹底している。

 関西大総合情報学部に通う久保さん。心理学のゼミを選択し、情報行動心理学や他者とのコミュニケーションについて学んでいる。さらに、毎日新聞大阪本社のキャンパる編集部にも参加するなど記事執筆の活動にも取り組んでいる。これまでに自身のモトクロス人生を語った記事や愛読書を紹介する記事などを執筆。今後は競技と両立させながら、取材記事にも挑戦していきたいと目を輝かせる。「大学進学をきっかけに人とのつながりの大事さを再発見した」。モトクロス界以外のコミュニティーも増え、自分の視野も広がっているそうだ。

 そんな久保さんが出場する2019年度の全日本モトクロス選手権が先月から始まっている。全8戦で争われ、1年を通じて全国6会場で行われる。日本各地を回るため、試合会場ごとに土壌の質が全く異なったり、天候によって地面のコンディションが左右されたりもする。久保さんを支えるチームスタッフと共にコースを研究し、レースに備えるのだという。

 中学3年生で出場した13年度選手権からは1桁台の年間総合順位をキープし、一昨年度の総合成績は2位。一見、順調とも思える競技人生だが昨年度はモトクロスを辞めようと考えるほど追い詰められていたという。快調なレース運びの中、エンジントラブルなどで一気に順位を落としてしまうことが多く、ふがいない気持ちにさいなまれた。「両親やスタッフ、ファンのみんなを悲しませる1年になってしまった」と悔しさをにじませる。

 そこで今年度は、心機一転新たなチームとバイクで選手権に臨んでいる。バイクを変えることは人生で一度あるかないかの大きな選択。しかし、性能向上に力を入れているメーカーの自分に合ったバイクを試してみたいと思い、決心したそうだ。

 「勝てる体制も環境も整った。今年度の目標はレースを心から楽しむこと。楽しんだら1位も取れると思うので。見ている方も楽しめるレースをしたい」と自信をみなぎらせる。その言葉通り、久保さんの今後の活躍に大注目だ。


■モトクロス
 オートバイ競技のひとつ。モトクロス競技専用車を用いて、未舗装のレース専用周回コースで順位を競う。全日本モトクロス選手権は日本モーターサイクルスポーツ協会が主催する国内最高峰の大会。


■人物略歴:くぼ・まな
 京都府出身。関西大総合情報学部3年。2017年全日本モトクロス選手権レディースクラス第1戦九州大会で初優勝。昨年度は年間総合5位。趣味は読書で、中村文則作品がお気に入り。

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