利用者の質問に対話形式で回答し、人間が書いたかのような文章も生成できる人工知能(AI)「チャットGPT」。学生の利用に慎重な大学が目立つ中、立命館大は今春から英語授業の一部で、チャットGPTと機械翻訳の機能を組み合わせた英語学習支援ツール「Transable(トランサブル)」を試験導入している。その背景と思いを取材した。【大正大・山口結衣】
「365日、そばに先生」
トランサブルは、入力した日本語文を英語文に自動翻訳すると同時に、翻訳された英語文の文法チェックができる。また、完成した英語文を日本語文に逆翻訳して、意図したとおりの英語文が作成できているかどうかを1画面で確認できる。
さらに、チャットGPTを組み込んだことで、完成した英語文が適切である理由を解説してもらえる上、従来の機械翻訳ではできなかった利用者による質問や注文が可能になった。例えば機械翻訳で作成した英語文が気に入らないと感じた場合、「別の言い回しを表記して」と注文すると、複数の英語表現を提案してもらえる。また、利用者の作成した英語文の出来をチャットGPTに評価してもらえたり、修正点を指摘してもらえたりすることもできる。
「24時間365日、常にそばにいてもらえる英語の先生ができた感覚」。そう話すのは、トランサブルを開発した同大大学院理工学研究科・博士課程の杉山滉平さん(28)だ。杉山さんは、「英語の論文を作成することになり、日本語と英語の相互翻訳をより効率的に行いたいと思ったことが開発のきっかけになった」という。IT学習サービス企画・開発企業の「スタディメーター」(本社・東京都千代田区)の支援を受け、今年1月に発表した。
トランサブルという名前は、杉山さんがtranslate(翻訳する)とtransform(変化、変じる)の言葉に、able(~できる)を組み合わせてつくった造語だ。
可能性を高く評価
このトランサブルの性能を高く評価した同大は今年4月、生命科学部・薬学部で展開する「プロジェクト発信型英語プログラム(PEP)」の英語授業の一部で試験導入した。同授業を担当する同大生命科学部の山中司教授(43)は、トランサブルのような生成AIを利用した新たな英語教育の可能性について「学生たちがテクノロジーをうまく使うことで、学生自身がその時に一番伝えたいメッセージを発信することが可能になるはずだ」と話した。
山中教授が特に生成AIを有効活用できると感じたのは、学生たちにパネルディスカッションの企画を考えてもらった時だという。その際、ディスカッションを行うにあたってのテーマ内容や役割、進行の流れのたたき台をチャットGPTに考えてもらい、その案をもとに学生たちが工夫を加え、英語と日本語での完成版を作った。それを見た山中教授は「テクノロジーを使ったことによって節約できた時間を、オリジナリティーの創出に充てることができ、結果的に成果物の質を高めることができると感じた」という。
授業でトランサブルを利用することについて、学生からは肯定的な感想が挙がっている。例えば「自分一人ではものすごくかかってしまうような文章作成の時間を短縮できるだけでなく、新たな英語表現にも出合える」といった声である。