「バリカタ君」。大学近くの行きつけのラーメン店で、私は店主からそう呼ばれている。別に硬めの麺が好きなわけではない。「ふつう」の硬さより2分ほど早く食べられるからそうしているだけだ。
振り返ってみると、昔からせっかちだった。カップ麺も指定の時間を待てないで食べ始めるこの性分、最近どうやら違う呼び名が付いたようだ。
「タイパ」である。タイムパフォーマンスの略語で、効率の良い時間の活用を指す。昨年そうした新たな行動様式を紹介した新書が刊行され、ベストセラーとなった。せっかちを肯定的に言い換えてくれた著者に感謝だ。
「タイパ」を求めるあまり、映画を早送りで見る若者が増えているという。そうした動きに「制作者に対して失礼だ」と目くじらを立てる人がいるかもしれない。しかし今の若者は本当に忙しいのだ。「等倍」の生活を送っていては、変化の激しい社会の波から取り残されてしまう。そんな漠然とした不安があるのだ。
今や、動画で配信される授業も倍速で視聴するのは当たり前。就職活動では、オンライン上で複数の会社説明会やインターン(就業体験)に同時参加することも珍しくない。オンライン化により、移動時間がかからないため、逆に予定を入れやすくなってしまっているのだ。
効率を求め、より高いタイパを追求した結果、余計に忙しくなってしまうジレンマを抱えてしまう。そんな袋小路に追い込まれているのは、きっと私だけではないだろうと思う。【上智大・沖秀都】