政府は今月13日、企業が自ら主催するインターンシップ(就業体験)で得た大学生・大学院生の情報を、採用選考で使うことを認める方針を決定した。「インターンシップは原則的に企業の採用活動とは無関係」という従来の建前が一転する今回のルール見直しを、大学側や学生たちはどう受け止めているのか。学生からの評価の高いキャリア教育の実践校である大東文化大(本部・東京都)と、鹿児島大を取材した。【大正大・中村勝輝、写真は国士舘大・太田響】
ルール見直しの対象となるのは、2024年度以降に卒業・修了する大学生と大学院生で、早ければ23年夏(4年制大学の場合、3年時の夏)に実施するインターンシップから適用される。現在、企業の採用選考解禁は大学生なら4年時の6月1日だ。しかし今回の見直しで選考開始が早まる分、企業の採用活動が長期化し、学生の就職活動も長引く可能性がある。
ただ、多くの企業が主催する夏季インターンは従来でも、水面下では学生の採用選考に利用されていた。「企業主催のインターンシップ=採用とは無関係」というルールは形骸化していたのが実態で、経団連などが今年4月、ルールの見直しを提言。今回の政府方針は、この提言を受けて決まったものだ。
囲い込み早まるか
一方で、学生に企業の実務者を引き合わせ、講義や職場体験を行うインターンシップは、多くの大学が、学生個々の進路選択・キャリア形成サポートの観点から実践している。
このインターンシップを3年時の年間授業に組み込み、きめ細かなキャリア形成プロジェクトを実践しているのが大東文化大だ。同プロジェクトを立案、推進してきた細田咲江・国際関係学部教授(61)は、今回の政府方針について「学生が早くから就職活動に向けて考えるきっかけになる」点を評価する。ただその一方で「対応を早めることが学生の苦痛となったり、学びたいことに支障が出たりすることはあってはならない」と指摘した。
実際、企業による「青田買い」を事実上追認した形の今回の政府決定により、人材獲得競争がさらに激化し、企業による囲い込みの動きがさらに早まる可能性がある。「政府方針により企業主催のインターンシップの質的向上につながればよいが、選考メインの内容になり、参加しないと内定が得られないといった誤解を学生に与えかねない」。地元企業と学生の出合いの場を設ける取り組みで定評がある鹿児島大の下田智子キャリア形成支援課長(59)は、そう指摘した。
学習に支障/良い機会
今回のルール変更は、新型コロナウイルスのまん延で思い通りの大学生活を送れていない学生の間にも、大きな波紋を広げている。
大東文化大外国語学部2年の佐藤杏南さん(19)は「インターンシップに参加しないと就活で不利になると思った。早くから準備に時間を取られ、留学や学生のうちにやりたいことができなくなるのは嫌だ」と話した。また鹿児島大法文学部3年の松井嘉孝さん(21)は「学びたい学問を学べないといった支障が出ると思う」と、専門知識習得への影響を懸念した。
一方で、今回のルール変更を前向きに受け止める声もある。大東文化大国際関係学部2年の安田歩夢さん(19)は「企業のインターンシップに参加することで、早いうちから自分に合う企業が分かる良い機会になる」と話した。
不安と期待、意見はさまざまだが、根底で共通しているように感じたのは、同大スポーツ・健康科学部3年の及川開世さん(21)が話すように「大学は自らの専門性を究める所。大学で学んだことが就活につながるのが本来の姿ではないか」という思いだ。記者自身も強くそう思う。
教育的アプローチの意義
現在の企業主催のインターンには問題点もある。大東文化大の細田教授は「企業のインターンシップは、実施期間が短かったり、事業説明やグループディスカッションのみと内容が乏しかったりする催しが多く、本来の意義である就業体験が行われていない」と指摘する。細田教授はその上で、「大学主導のもと、教育的アプローチのインターンシップを提供し、現場体験を通じて、学生の就労観の醸成や、社会人の視点への気づきとなることに意義がある」と、大学教育の一環としてのインターンシップの重要性を指摘した。
大東文化大は今年、学生自身がインターンシップの内容や成果を評価し表彰する「インターンシップアワード」で文部科学大臣賞を得ている。細田教授はこの取り組みをさらに充実させる考えで、「今後は全学的な長期インターンシップの開発や、学部学年を超えたつながりを持てる場と学習機会の提供を推進していく」と今後の展望を語った。また同アワードで昨年、文部科学大臣賞を得た鹿児島大の浅田隼平キャリア形成支援センター特任助教(30)も「学生のキャリア形成を促すための教育的取り組みとして、今後もインターンを活用していきたい」と抱負を述べた。