資源価格の上昇や円安の進行を背景とする物価高騰は、全国の大学生、特に親元を離れて1人暮らしする学生の生活にも大きな影響を与えている。満足な食事も取れず困窮する学生たちを支えたい――。そんな思いで支援活動を実施する各地の大学と、支援を受ける学生の思いを取材した。【法政大・園田恭佳】
10月26日、専修大学では9回目となる食料支援プロジェクトが実施された。新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の停滞でアルバイト収入が減り、生活が苦しくなった学生を手助けしようと2021年9月に始まった取り組みだ。
以後これまで年に数回のペースで、卒業生や父母、教職員から費用面などで支援を得ながら、神田キャンパス(東京都千代田区)と生田キャンパス(川崎市)の2カ所で行われている。食材は神田で400人分、生田で600人分用意した。希望者全員に行き渡らないこともあるほど、毎回大盛況となっている。
無料配布する食材は包装米飯にパン、レトルト食品、菓子やジュースなど。専修大の赤松由香・学生生活課長は、この活動を始めたいきさつについて「コロナ禍で生活が苦しい学生を心配し、支援したいという声が卒業生から多く上がっていた。そんな支援をしてくれる大人と学生をつなげたいと思った」と話す。
また、現在の物価高騰については「今は収入が物価の高騰に追い付かず、生活水準が下がっている。働きたくても働けない状況とは異なるが、学生が困っていることには変わりない」と話した。そんな状況が落ち着くまで活動は続ける方針で、12月には今年度4回目となる配布を行う予定だ。
学生の「食」を支えようという活動は、他大学でも行われている。静岡県立大学では20年7月から、学生ボランティアセンター運営の「たべものカフェ」を開催している。同カフェでは、大学関係者や市民の方からの募金などを受けて地域のスーパーマーケットからお米やレトルト、野菜や肉などを購入。月に2回、平均30人ほどの学生たちに無料で配布している。また学生へのメンタルサポートにも力を入れているという。
広島大学では「学生団体C.(シードット)」の企画するフードバンクが、今年5月から行われている。月2回の開催で、各100人ほどが訪れる。同団体はもともと地域と学生がつながる空間づくりを目指して活動していた。そんな中、フードバンクを通じて食材の生産者・団体と学生がつながる機会を作りたいと考えたそうだ。現在は地域の農家や市場、スーパーマーケットなどから、規格外品や余った食材の提供を受けているという。
現在の物価高騰下で、学生たちはどんな苦労をしているだろうか。専修大の配布食材を受け取りに訪れた同大の男子学生は「学生ではアルバイトで稼げる金額に上限がある。ものの値段がどんどん上がっていく中、食費を削っていくしかない」と不安をあらわに話した。静岡県立大には「普段原付きバイクで通学しているため、ガソリン価格の上昇には困っている」と話す男子学生がいた。またシードットのフードバンク担当代表で広島大総合科学部4年の江口ひかるさんは「広島大の学生は県外出身者の割合が高く、1人暮らしも多い。その分、物価高騰で影響を受けている人が多いのではないか」と語った。
低所得者や社会的弱者とされる人々には国や自治体の支援があるが、暮らしに困窮する大学生は見過ごされがちだ。それはなぜか。静岡県立大で「たべものカフェ」に携わる津富宏・国際関係学部教授は「高等教育がこれだけ一般化してきている中で、大学へ行くのはぜいたくという考えが社会に今もまだ残っている。それが学生への支援が不十分な現状の背景にあるのではないか」と指摘する。
そんな状況下で、学生にとって食料支援は大きな支えとなっている。記者が直接話を聞いた専修大、静岡県立大の学生は「本当に助かっている」と皆が口にした。またシードットが広島大で行ったフードバンクについても、アンケートで「おいしい食材が無料でもらえてありがたい」「食費が浮くので助かる」といった感謝の声が多く見られた。
この活動の場を精神的なよりどころにしているという学生も多い。静岡県立大の女子学生は「コロナ下では人と関わる機会も減り家にこもることが多かった。そんな中、食料支援活動で外に出る機会が生まれ、抱えていた悩みも相談することができた」と語った。
配布されるのは食材だけではない。専修大では今回、生理用品が用意されていた。過去にはマスクを配布するなど、その時々の状況やアンケートの結果を踏まえて、配布する品を選んでいるという。参加した女子学生は「食材だけでなく、生理用品にもお金がかかる。女性としてはとてもありがたい」と話していた。
満足に食事を取れないのは大問題だが、バイトを増やせば勉学に割く時間が足りなくなってしまう。そんな学生に手を差し伸べるこれらの支援活動は、大変価値あるものだと感じた。