なにコレ!? メタバースに温泉街を 岐阜女子大・学生チームと下呂市が連携

なにコレ!?

 岐阜県の名湯・下呂温泉の温泉街をインターネット上の仮想空間「メタバース」に構築し、観光客を呼び込もうという取り組みが進められている。手がけているのは、岐阜女子大学の学生たちだ。昨年7月に同県下呂市と同校が結んだ「地域活性化に関する包括連携協定」に基づくこのプロジェクトの、意義や狙いを取材した。【国士舘大・太田響】

 昨年12月18日、雪が降りしきる下呂市内で、ドローンや360度カメラを利用して旅館の外観を撮影する学生たちの姿があった。撮影を手がけたのは、岐阜女子大の学生団体「メタバースクラブ」。ドローン操縦資格を持つ学生の協力を得て、手がかじかむ寒さにめげず、14人で手分けして8軒の旅館を撮影した。
 この撮影は、下呂市と同校が連携したメタバース構築プロジェクトの一環で行われた。撮影した画像は、メタバース上に3D(立体)画像を作成する際の参考資料になる。文化創造学部3年で同クラブ部長の小島和さん(21)は「実際に足を運ぶことで、旅館と旅館の距離が想像よりも近いことに気が付き、とても参考になった」と手ごたえを語った。

企画、製作、検証

 昨年7月に始動した同プロジェクトは、メタバース上に下呂市役所など同市内の公共施設や温泉旅館などの歴史文化・観光施設を構築し、利用者にアバター(ネット上の分身)として観光してもらうことを目指している。同校が下呂市に持ちかけて実現したこのプロジェクト、完成まで3年を予定している。

 推進しているのは、60人が所属するメタバースクラブだ。同校の文化創造学部・文化創造学科には地元の文化・産業遺産のデジタル保存などを研究する「デジタルアーカイブ専攻」があり、クラブ発足の基盤となった。小島さんはプロジェクトについて「デジタル技術を活用して観光資源の価値を高める取り組みであり、できるだけ多くの人に利用してもらいたい」と抱負を語る。

 学生たちは企画、製作、検証の3チームに分かれて所属。企画チームが検討、提案したアイデアを基に製作チームが専用ソフトを利用して旅館などの建物を3Dモデルで製作する。検証チームは製作モデルを実際に利用して効果測定を行う。副部長の同学部3年、左高結衣さん(21)は「建造物を仮想空間で再現する時に詳細に作りすぎてしまうとデータとして入りきらなくなってしまう。どこまで取り込むか見極めるのに苦労している」とメタバース作成上の課題を口にした。

観光客獲得の武器に

 同クラブは岐阜女子大が下呂市と包括連携協定を結んだのを機に、メタバース構築プロジェクトの中核を担う存在として発足した。設立したのは小島さんら学生3人だ。デジタルアーカイブ専攻の小島さんらは元々、メタバース構築に不可欠である3Dモデル作成の技術に強い関心があり、昨年6月から文化創造学部で教育工学を教える横山隆光教授のゼミで技術を学び始めていた。

 プロジェクトでは観光客を呼び込むだけではなく、どこをどんな目的で訪れたかのデータ収集や、地域の名産品や土産物の販売を行うことなども計画している。副部長の同学部3年、青木稀愛さん(21)は「気軽に観光ができない遠隔地の方に積極的に活用してほしい。旅行の計画などに役立ててもらいたい」と思いを寄せる。

新型コロナウイルス禍で観光客数が急激に落ち込み、地域経済の低迷に苦しむ自治体からも、メタバースの取り組みは最近大きな注目を集めている。下呂市観光商工部長の河合正博さん(59)は「メタバース上に下呂温泉を構築することで、新たな観光客を呼び込みたい。将来的には店にある商品まで映像化し、興味を持ってもらえないかと考えている」と話した。

実践に向けて

 同校はメタバースの教育分野への利活用についても意欲的だ。プロジェクトでは下呂市内の歴史文化・観光関連施設のほか、同校の学内施設も構築し、小中学生らの遠隔授業や交流など、地域の教育への新たな貢献策として活用することなども目指している。

 同クラブの学生たちを指導する横山教授は、下呂市との連携協定に当初から関わり、メタバース構築プロジェクトの責任者を務めている。横山教授は同プロジェクトを学生主導で行う意義について「技術の習得だけでなく、メタバース作成のノウハウやプロジェクトの組み方、マーケティングといった将来社会に出て必要になるプロセスを実践的に学ぶことができる」と語った。

 実際、プロジェクトに取り組む学生たちは、技能やノウハウ以外でも自分たちの成長を実感している。地元企業などを招いた報告会や、高校生らにプロジェクトの内容を紹介する説明会などで壇上に立つ経験を積んできた小島さんは「人前に立つことは得意じゃなかったが、さまざまな場面で緊張しながらもしっかりと自分の意見を言えるようになってきた」と話した。

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