ここからfrom現場 差別容認する社会に「NO」 学習会や抗議活動 Z世代の挑戦

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 外国人や障害者など社会的な少数者、弱者に向けられる有形無形の差別。そんな不正義に対してはっきり「NO」と声をあげ、差別と闘う若者たちがいる。差別事案の相談を引き受け、非人道的な扱いに苦しむ人々に寄り添いながら、問題解決に向けて取り組む学生団体「Moving Beyond Hate」。活動にかける思いに迫った。【中央大・朴泰佑】

ノリへの違和感、東大から発信

 「差別を無意識的に許容している日本社会の空気感に驚いた」。そう語るのは、同団体を設立した東京大学4年のトミー長谷川さん(22)だ。父が英国人、母が日本人のトミーさん。7歳から18歳まで英国で過ごした後、東大に入学し、すぐに強い違和感を抱いたという。「日本人の同期生たちが、一種のノリと勢いで、障害者を差別する言葉を笑いながら使う環境が気持ち悪かった」

 感じた「気持ち悪さ」とは、その言葉が持つ差別的な意味を十分理解せず口にしていること、そしてそのおかしさを誰も指摘しないこと。「その空気感が非常に居心地悪かった」とトミーさんは話す。

 トミーさんは英国在住当時、国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルに所属し、難民に対する募金活動などに取り組んだ。「英国では差別主義者たちが明らかな悪意の下で差別発言を繰り返すが、社会の拒否反応も強い。一方、日本では悪意を持って差別する人が少ない半面、無邪気に面白がって差別的な言葉を使う人、そしてそれを許容する人が多いと感じる」と話す。

 こうした思いのもと、反差別活動に取り組むため2019年に東大駒場キャンパス(東京都目黒区)を拠点に設立したのが同団体だ。「東大は社会的な特権を持っている。そのためか大学全体として差別への関心が薄いと感じる。だからこそ、東大で発信することに大きな意味がある」というトミーさん。日本社会の、差別にNOと言わない空気を突き破り、日本からあらゆる差別の根絶を目指すことを目的としており、趣旨に賛同するメンバー15人で活動している。

 活動の大きな柱は、差別を知り、差別と闘うための多様な学習会を企画、実施すること。同キャンパスで開催された10月の学習会では、市民を連帯させ、広がりのある社会運動を作り上げるのに大きな役割を担う方法論である「オーガナイジング」に関する学習と討論を行った。また、差別に関する相談を個別に引き受けて、社会に向けて広く問題提起し、解決を目指して行動する取り組みも行っている。

 文字通り憎悪を超えて動く、同団体の名が広く知られるきっかけとなったのは、20年6月に発覚した日本大学の非常勤講師による黒人や中国人に対する差別的な発言問題だ。オンライン授業で繰り返された差別的発言を問題視した日大の学生から相談を受け、問題を告発した。

 情報技術(IT)に詳しいZ世代らしく、オンライン署名サイトなどを駆使した同団体の取り組みは同世代の若者を中心に幅広い共感を呼んだ。大学の代表者との直接面談が実現し、その場で再発の防止を求めた。日大は同9月、男性非常勤講師の差別発言を認め、謝罪声明を発表した。

 またLGBTなど性的少数者への差別発言を行った東京都足立区の区議に対するデモ活動なども行い、多様な差別に抗議するアクションを起こし続けている。

入管問題にも切り込む

 同団体が現在、重点的に取り組んでいるのは、正規の在留資格を持たない外国人の長期収容などをめぐる入管問題だ。きっかけは、日本でドキュメンタリー作品を撮り続けてきた米国人のトーマス・アッシュ監督の映画「牛久」を見たことだとトミーさんは話す。同作品は、茨城県牛久市にある東日本入国管理センターに長期収容された外国人たちの精神や肉体がむしばまれていく実態を、克明に記録した内容だ。

 何か行動を起こしたいと考えたトミーさんは、メンバーとともに毎週金曜日、東京都港区にある東京出入国在留管理局を訪問。他の学生団体とも連携しつつ、被収容者の方々と世間話も交えながら、体調の変化や困りごとなどを聞き出し支援する活動を行っている。「入管の問題点は情報が一切開示されず、収容期間や医療の受診に関する明確なルールが存在しないこと」と語るトミーさん。「医療行為の必要性や仮放免への手続きを外部から働きかける」ため、地道な面会活動を続けていく考えだ。

 同団体では、上智大学で今年7月「入管のレイシズム(人種差別)に対するZ世代の取り組み」と題したイベントを開催。裁判などの審査がないまま入管施設に長期収容されたのは国際人権規約に反するとして、国に損害賠償を求めて提訴しているクルド人男性のデニズさんと連携し、入管問題に関する情報発信も行っている。

 見えにくい差別を見逃さずに問題提起し、それと闘い続ける同団体。「周りの空気に流されて差別を容認してしまう社会を変えていきたい。若い世代が差別的な風潮に抵抗し、自分たちで差別と闘う新しい運動を作り上げているということを実感してほしい」とトミーさんは話した。

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