読見しました タネの「その後」

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 私の趣味はいろいろあるが、暇になると熱を入れてしまうのが青果物のタネを植えること。タネは店で買うのではない。家族で食べた果物や野菜からタダで手に入れる。リンゴやスダチ、アボカド。おせっかいかもしれないが、無用物扱いされるタネの「その後」が気になり、繁殖させてあげたいという気持ちが湧いてくるのだ。

 水で浸したペーパーの上に置けば、たいていの場合、発芽までは順調に進む。白くて力強い芽や根っこが、ぐいっと殻から出てくる。そして、光を求めてにょきにょきっと上へ伸びる。かわいらしい小さなタネに、こんなパワーが秘められていたことを実感する。

 問題はその後だ。我が家は熱帯でも寒冷地でもない。もっとも、食べ時はタネのまき時ではない。さすがに、人間を差し置いて数個のタネのためにエアコンを稼働させるなんてことは論外だ。発芽してもなかなかうまく育たない。我ながらバカみたいとあきれるが、「もしかしたらうまく育つかも」という思いを捨てきれないのだ。

 5月には、いただき物のメロンからタネを丁寧に取り出し、発芽させた。珍しくすぐ枯れることなく、2カ月ほど生き延びてくれた。甘すぎて苦手のメロンだが、「自分で育てたらおいしく食べられるかも!」なんて思わせてくれた。きっと来年も届くだろう。今度は、水やりを忘れないように……。【千葉大・谷口明香里、イラストも】

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