なにコレ!? 故ドナルド・キーン氏残した蔵書7000冊 東洋大生らが整理・調査

なにコレ!?

 日本の文学と伝統文化を海外に紹介し、日本文学研究の第一人者として知られたドナルド・キーン氏(2019年死去)。今年7月、キーン氏の居宅があった東京都北区とドナルド・キーン記念財団、そして東洋大の3者によって、キーン氏が自宅などに残した約7000冊の蔵書を整理・調査するプロジェクトが始動した。3者に取り組みの意義や狙いを尋ねるとともに、整理・調査を実際に担っている東洋大の学生たちの奮闘ぶりを取材した。【大正大・中村勝輝】

東京都北区などの事業

 キーン氏が残した蔵書は、自身が収集した文学作品や歴史書、研究書、生前贈られた献本など多岐にわたる。日本のあらゆる時代の文学に精通し、川端康成や三島由紀夫など数多くの著名作家と親交があったキーン氏の研究の原点や人脈、足跡をたどれる絶好の資料であり、それを読み解くことで、キーン氏と日本文学の今後の研究の発展につなげるのがプロジェクトの狙いだ。作業は、東洋大の学生によって当面23年3月まで行われる予定だ。

日本と米国を半年ごとに往復する生活を長年続け、11年に発生した東日本大震災後、キーン氏は日本国籍を取得し日本に永住することを決意した。亡くなるまで日本で45年間、居を構えたのが北区西ケ原で、同区は06年に名誉区民に選定していた。一方、東洋大は08年にキーン氏を学術顧問として招へいし、講義や講演で学生との接点を確保。11年には名誉博士号を授与する深いつながりがあった。

 今回のプロジェクトは、キーン氏の蔵書を保管し、同氏の没後もその業績や思いを後世に伝えたいと願う同財団と北区が話し合い、北区がリーダーシップを取る形で企画された。そして財団は蔵書の準備や資料の内容確認に際しての助言を行い、北区は作業する場所の提供や必要な資材の準備、経費の負担などを担うことが決まった。

ドナルド・キーン氏
ドナルド・キーン氏

 プロジェクトを主導する浦野芳生・北区地域振興部参事は「キーン氏は日本人を励まし続けた人。残された蔵書を読み解き、キーン氏の業績を幅広く発信したい。また、この取り組みを通じて区民の皆さんの誇りを醸成するとともに、北区への興味や関心を高めて、交流人口を増やすことなども目指したい」と意気込みを語る。

採用枠5倍超す応募

 蔵書の整理や分類、調査の実務は、北区から提案を受けた東洋大がプロジェクトの意義に賛同して、学生が行うことが決まった。同プロジェクトの監修を務め、学生がまとめた調査書の内容点検も手がける石田仁志・東洋大文学部教授は「キーン氏の業績を日本人の多くが知らない。キーン氏がどれだけ日本文学に向き合い、情熱を注いだか。そして蔵書から、キーン氏が残した思いを、若い学生たちに受け止めてもらいたい」と話す。

 学内で蔵書整理のアルバイトを募集したところ、学生たちの関心は高く、採用予定数20人の5倍を超す106人の学生から申し込みがあった。文学部所属の学生だけでなく、幅広い学部・大学院の学生から応募があったという。このため同大は採用枠を29人に拡大して対応した。

 採用された学生たちは、北区立中央図書館が1冊ずつ作成した図書目録入力フォーマットに蔵書の調査内容を記載する。フォーマットには蔵書のあった場所や内容、キーン氏が書き込んだメモの有無やハガキが挟んであるページといった点を記録していく。その後、フォーマットに記載された事項をパソコンに入力し、データ化作業を手がけるのも学生たちだ。

 学生たちはこうした根気のいる作業を、それぞれ授業がない日にシフト制で行っている。文学部2年・斉藤美幸さんは「元々キーン氏を知っていた。今回の蔵書整理を通して、キーン氏が幅広い日本文学を愛していたことに触れられて良かった」と語る。一方で、キーン氏を知らずに参加したという同学部3年・松倉愛美さんは「司書を目指しており、その勉強目的で参加した。蔵書に触れてキーン氏の人柄をしのぶことができたが、中には破れているものもあり、丁重に扱って資料の劣化を防ぐ必要があると思った」と、整理作業の苦労を語った。また情報連携学部4年・落合唯さんは「実物の蔵書を手にすると、著名な方とキーン氏の交友関係を垣間見ることができる」と、実際に作業を担当した人ならではのひそかな楽しみについて明かしてくれた。

 同図書館は館内に13年、特設コーナーを設けてキーン氏から別途、寄贈を受けた書籍などを公開する取り組みを行っている。「キーン氏は生前、ご自身が残した本をオブジェ(置物)として扱ってほしくないと言っていた」と話す松元宙子・同図書館図書係長。今回のプロジェクトで整理・調査された蔵書についても「多くの人の手に触れ、読んでもらえるようにしたい」と今後の展望を語った。また石田教授は「今回の調査結果を基に、キーン氏の研究室や書斎をVR(仮想現実)空間で再現できたら、より多くの人にキーン氏の思いを感じ取ってもらえるのではないか」と話した。

PAGE TOP