実名報道のあり方問う 大学生座談会

 相模原市の障害者施設殺傷事件や京都アニメーション放火事件等で、被害者の実名報道の是非についてさまざまな議論が交わされている。被害者に関する実名報道について、学生たちはどう考えているのか。メディアに関心のある学生に座談会で生の声を聞いた。さらに、実名報道に対するメディアの考え方について、毎日新聞東京本社の木戸哲社会部長にインタビューを行った。【司会・まとめ、立教大・明石理英子】


判断基準が分からない 報道する意義発信必要

――実名報道について考えたきっかけを教えてください。

 A 京アニ放火事件などで実名報道のあり方について話題になっていたから。

 B ツイッターやインターネットで実名報道について賛成、反対などいろいろな意見が飛び交っているのを目にしたのがきっかけ。

 C 僕も。ネット上で実名報道に関するさまざまな記事が出ているのを見て、問題意識が芽生えた。

 D 法学部なので授業で報道のあり方について触れる機会が多いから。被害者の権利や報道の自由といった、法律的な内容を授業では扱っている。

――被害者の情報に関する報道のあり方について、疑問に思ったことはありますか。

 B 被害者の実名が報道されるときとそうでないときがあるが、その判断基準がわからない。

 A 確かに。特に、京アニ事件では最終的に実名で報道されたのに、相模原の殺傷事件では、今もほとんどの被害者の名前が匿名で報道されているのが気になる。

 D 一番疑問に思ったのは、報道方針に対する各メディアの足並みがそろっていないこと。被害者のプライバシーの保護に気を使うのであれば、統一しないと意味がないのではないか。

 B 世間の意見が報道のあり方に影響を及ぼしているかについても気になる。

――いろいろな疑問点が挙がりました。それでは、もし、皆さんや皆さんの家族が被害者となった場合、実名での報道に賛成ですか、反対ですか。

 C 自ら実名を公表することにはためらいを感じてしまうかも。でも、匿名で報道されることによって、勝手な臆測が飛び交うのもいやだ。

 B 同感。匿名で報道されても、被害者の情報は探られると思う。だけど、不特定多数へ実名で公表されるのは勇気がいる。

 D 実名での報道は社会的な意義があるため、自分は賛同するはず。事件を繰り返さないためにも、記録に残すことは必要だろう。

 A 私も、誤った情報を流されたくないという点と、事件を風化させたくないという点で、実名報道に賛成すると思う。

――逆に事件や事故に巻き込まれた本人や家族、遺族が匿名を希望したらメディアとしてどう対応すべきだと考えますか。

 C 意義のあることだから、実名報道すべきだ。

 A 当事者たちの意見を聞いたうえで、メディア側の意向を説明し、理解してもらうのが大切だと思う。

――身近な人が被害者となった時に、実名報道されたことはありましたか。

 C 以前、中学時代の知り合いが交通事故で亡くなったことを、実名で報道されて知った。ショックも大きかったし、事故が現実味を帯びて感じられた。匿名だったら気付かなかったかもしれない。

――被害者やその家族・遺族が匿名での報道を求める主な理由として、メディアスクラム(大きな事件や事故の当事者やその関係者への、過剰な取材による被害)が挙げられます。メディアによる取材姿勢についてどう考えていますか。

 A 取材の基準があるのであれば、メディア全体でもっと徹底すべきだ。

 B そもそも、実名報道の是非が議論されるようになったのには、メディアの取材姿勢、さらにはメディアの取り上げ方に原因があると思う。

 D 当事者の感情的な部分を取り上げるために、過剰な取材が行われているように感じる。本当に報道すべき内容なのか、情報を受ける側も考える必要がある。

――今後、被害者報道についてメディアはどういったことを心がけて報道していくべきだと思いますか。

 B メディア側と情報を受ける側との間で、報道の意義への認識にギャップがあるように感じる。メディアは、そういった意義についてもっと発信していくべきではないか。

 A 私も同じように考えている。会社としてだけでなく、記者ひとりひとりも、被害者やその家族について報道する意味を考えることが大切だと思う。

 D 被害者の実名報道のように意見が分かれる事柄も多いと思う。だけど、社会に伝えるべき情報は発信していくという姿勢は貫くべきだ。

――ありがとうございました。


■座談会参加者

A=国立大文学部3年・女子

B=私立大社会学部3年・女子

C=私立大経済学部2年・男子

D=私立大法学部3年・男子


■被害者の実名報道
 2016年7月に起きた相模原障害者施設殺傷事件や、19年7月の京都アニメーション放火事件では、被害企業や被害者の遺族、家族がメディアへの実名公表を承諾しないケースが相次ぎ「被害者の実名報道」のあり方が注目された。放火事件では、京都アニメーションが実名公表を控えるよう京都府警に要望し当初匿名だったが、後に犠牲者36人全員の名前が公表された。原則匿名の相模原事件では、初公判前に、当時19歳だった女性の母親が「娘の生きた証しを残したい」と殺害された娘の名前を公表した。

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