ここからfrom現場 互いを知り、共生につなげる クルド人交流会、参加者の思いは

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日本でなじみのある「じゃんけん列車」などの遊びは、クルド人参加者にも大変喜ばれ、大人も子どもも楽しんでいた=埼玉県内で
日本でなじみのある「じゃんけん列車」などの遊びは、クルド人参加者にも大変喜ばれ、大人も子どもも楽しんでいた=埼玉県内で

 国内に在住するクルド人を招き、レクリエーションを通じて日本人の大学生と親しく接する交流会が、埼玉県内の大学でこのほど行われた。埼玉県の南部には、多くのクルド人が居住していることで知られる。交流会を開いたいきさつや目的、参加者たちの思いを取材した。【明治大・山本遼】

 交流会は10月下旬に開催され、埼玉県川口市や蕨市に居住するクルド人19人(うち子ども8人)と、開催した大学の学生約30人が参加した。

 交流会を企画したのは、開催大学で人権論などを教える芝田英昭教授(67)だ。マイノリティーの存在に関心があり、「多文化共生の重要性を学生に説きたい」という思いを抱いていた芝田教授は、SNS(ネット交流サービス)などで昨年夏ごろから特に民族差別的なヘイト投稿の的となった在日クルド人の存在に着目。地域社会での共生を模索する観点から、クルド人の人々の文化や生活慣習などの聞き取り調査を昨年12月に始めた。

 そして芝田教授は今春、少人数の学生と在日外国人の文化や現状を調べる研究会を立ち上げた。またより多くの学生がクルド文化を知るための場として、交流会の実現に動いた。「学生たちが気軽にクルド文化を知る機会があれば、互いに理解し合うきっかけになり、それが共生につながる」との考えからだったという。

 交流会の開催は、6月に続いて2回目となる。再度開催したのは、芝田教授によると「クルド人の皆さんと学生たちとの信頼関係を構築し、深める」という意味合いが大きかった。また芝田教授は「今も続くヘイトに立ち向かうには、小規模でも相互理解を図り、支援する取り組みを長く続けることが大切」と指摘した。

笑いの絶えない会場

 1回目の交流会は互いの文化の紹介に力点が置かれたが、2回目の今回は、体を使うスポーツやゲームの要素を取り入れたメニューになった。会場では、「じゃんけん列車」や「だるまさんが転んだ」など、子どもから大人まで世代を問わず楽しめる種目が用意され、参加者が自然に入り交じって楽しんでいた。子どもらと遊ぶ学生の姿が多く見られ、約3時間の交流会の間、笑いが絶えず明るい雰囲気に包まれた。

 またクルド人の女性らは民族衣装をまとい、クルドの踊りを披露した。まず女性らが手本を示し、その後学生たちも参加して、皆で手をつないで輪になって踊った。見よう見まねながらも一緒になって踊る学生たちの姿が印象的だった。

 会場では、レクリエーションと並行して、クルド人の参加者から日常生活での困りごとの相談に応じるコーナーも設けられた。相談相手は埼玉県内の熊谷生協病院の専門相談員が務めた。

 この相談の場を設けたのは、1回目の交流会で学生らが感じたもどかしさからだったという。クルド人の参加者から「医療保険に入ることができず、病気になった時の医療費負担が心配だ」などという声が上がったものの、学生らは話を聞くことだけしかできなかった。そこで今回は具体的なアドバイスができる対応を取ることにしたという。

 クルド人参加者からは、片言の日本語で交流会の印象についてさまざまな感想が聞かれた。36歳のクルド人女性、べシュタシュさん(仮名)は「楽しかった。元気で帰れる。何年かたっても思い出せるような思い出が残ってうれしい」と率直な喜びを語った。32歳の女性シェリバナさん(仮名)は「みんなが楽しんで一緒にクルドのダンスを踊ってくれて、すごくうれしかった」と話した。

 日本社会で暮らした感想も聞かれた。べシュタシュさんは「全員じゃないけど他者に対して壁があると思う。また学校教育はすごく良いのに、社会に出ると利己的になったり、他者への関心をあまり持たなくなってしまったりするように感じる」と語った。東京・上野でケバブ屋を営む30代の男性、バリバイさんも「学生たちには、日本人と外国人を隔てる壁を頑張って壊してほしい」と話した。

 こうした声に応えるように、学生からは「互いを知らないから恐怖感があるが、知れば共生できる」と手応えを語る声や、「クルドの方々と接することができてよかった。未知の存在に対して壁を作る日本人の特徴を学ぶきっかけになり、それを変えるためにできることは何だろうと考えた」という声が聞かれた。

中傷あるが前向きに

 記者は、クルド人の方々にSNSで横行する中傷についても尋ねてみた。「批判されていることは全部違うから全然問題ない」と話したのはシェリバナさん。べシュタシュさんは「(差別は)もちろんある。でも慣れたら気にしない。(お互いの)バックグラウンドを考えて、仕方ないと思っている。自分も前を向いていきたい」と語った。

 交流会を企画した芝田教授は「前回以上に多くの学生が参加してくれたことで、十分とは言えないかもしれないが、クルド人の生活実態が分かる若者が増え、SNS上の中傷の多くがフェイクだと気付いてくれたと思う。家族や友人にクルド人の実情を正しく伝えてくれるだろうと期待している」と話した。

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