高齢化が進む日本で、高齢者と若者層の世代間交流を促進する「異世代ホームシェア」という取り組みが注目を集めている。自宅に空き部屋を持つ高齢者と、部屋を探している学生の同居を成立させるこの取り組みは、どこに利点や課題があるのかを取材した。【上智大・清水春喜】
家庭的ぬくもり
「私にとって飯野さんは第二のおばあちゃんです」。そう話すのは、今年3月から東京都練馬区の飯野巳恵子さん(83)宅で暮らす大学2年生、木田美映ミシェルさん(19)だ。木田さんは滋賀県出身。異世代ホームシェア事業を手がけるNPO法人「リブ&リブ」の仲介で、飯野さん宅の2階に住む。慣れない東京での1人暮らしを心配した家族から勧められ応募した。毎月、家賃代わりに飯野さんに支払う額は相場の7万円の半分、3万5000円と安価に設定されている。
木田さんは大学進学後1年間、間借り人だけで住居スペースを分け合うシェアハウスに住んでいた。だが、毎朝毎晩顔を合わせて会話を楽しむ家庭的なぬくもりのある今の暮らしにひかれたという。木田さんの場合、負担額には食事代も含まれている。「飯野さんの昔話を聞きながら一緒に食べるご飯が、日々の楽しみになった」と木田さんはうれしそうに話す。
飯野さんは夫を亡くした翌年の2018年から学生の受け入れを始めた。飯野さん自身、就職のため上京し、身寄りのないまま1人暮らしをする中で度々寂しさや怖さを覚えた経験がある。「自分と同じように寂しい思いをしてほしくないという気持ちで受け入れている」と言う。
高齢者と若者、双方にメリットがあるのがこの取り組みだ。高齢者は収入源を確保できるだけでなく、若者との交流で生きがいも生まれる。一方で若者も、割安な価格で住まいを確保し、高齢者を通じて地域社会とのかかわりを持つことができる。親の仕送りが伸び悩む中、物価高で生活が圧迫される下宿生が多いだけにそのメリットは大きいと言えるだろう。
採算面では課題
ただ、国内での異世代ホームシェアは現状、運営団体にとっては労多くして、収益面で課題が大きい取り組みと言えそうだ。
12年からこれまでに約30組の同居を成立させてきたリブ&リブ代表の石橋鍈子さんによると、異世代ホームシェアは高齢者と学生との間に問題はないか、運営団体が定期的に聞き取りをするのが特徴だという。高齢者と学生の間にトラブルが起きるなどした際に調整する必要があるからだ。
見ず知らずの高齢者と若者が同じ屋根の下で円満に暮らせるように仲立ちするのは「経験と時間が必要」だと石橋代表は話す。リブ&リブの場合、同居が成立した段階で、貸手と借り手双方から初期費用として2万円、相談費として月々3000円を受領する仕組みを取っているが、現状では採算は取れていない状態だという。
この取り組みについての周知が進んでいない点も課題だ。石橋代表によると、受け入れ側の高齢者の数が慢性的に不足しており、利用を希望する学生を待たせてしまう現状がある。石橋代表は以前、関心を持った高齢女性から「区の取り組みだったらやったんだけどねえ」と言われた経験がある。それだけにNPO法人単独の努力では信頼感の確保について限界を感じているという。
行政と連携カギ
そこで、石橋代表が可能性を感じているのが区役所との連携だ。行政機関がかかわることで、高齢者も安心して取り組みに参加できる。石橋代表は実際にいくつかの区から問い合わせが来ていると明かし、前向きに検討していると語った。
国内でも、行政機関が異世代ホームシェアの取り組みに積極的に関与している事例はある。京都府がNPO法人や企業などと協力して展開する次世代下宿「京都ソリデール」事業だ。
この取り組みは16年に始まった。京都府は貸手と借り手のマッチングを行う事業者に業務委託をするほか、トラブルが起きた際にはマッチングを行う事業者と一緒に解決に当たる。
事業を担当する京都府建設交通部住宅課の和田由美子さんは「進学を機に京都に来た学生に京都の文化に愛着を持ってもらうため、地域とのかかわりを作ろうと始めた」と説明する。これまでに約60件の同居が成立しており、「行政ならではの安心感が応募者に対する信頼感の醸成につながっている」と話す。
ただ、京都府は国内では少数派。これに対し、行政の力強いバックアップを背景に異世代ホームシェアの取り組みがより普及しているのが欧州だ。例えばドイツでは、仲介事業者が市や州政府といった行政機関と連携し、資金面での支援や貸手の確保、借り手の募集で協力を得ている。
異世代ホームシェアについて研究している京都橘大学の川崎一平助教は「異世代ホームシェアは、利用する学生や高齢者のみならず、社会全体としても社会保障費削減の恩恵を受ける取り組み」と評価する一方、「国内で広く普及しビジネスとして成立するためには、法整備も含めた行政の関与が必要」と指摘する。