緊急事態宣言が解かれていた先月中旬、意を決して東京を出発した。行き先は長野県北部。都県をまたぐ移動にためらいの気持ちはあったが、「今しかチャンスはない」と自分に言い聞かせ、人生初のひとり旅に踏み出した。
旅の目的は、卒論で取り上げる児童文学作家の資料集め。長野にその資料館があることを知った私は、訪れるタイミングを決めかねていた。資料館は、長期の冬季休館がようやく明けたばかり。卒論の正式題目の提出日が刻々と迫る中、旅立つことを決めたのだった。
思えばこれまで、旅先では受動的な態度をとってきた。観光地の道案内はいつも連れ任せで、ただ後ろをついていくだけ。写真も撮らず、恥ずかしがって現地の人々と交流すらしようとしない。しかし今回は、企画、準備、実行すべてひとりの特別な旅だ。今までの消極的な自分から脱却したいという思いが強かった。
だから宿泊先は、宿の主人との距離が近いペンションを選んだ。閑静な森の中、暖炉のあるダイニングルームで、主人と語り合う夜のひとときは心地よかった。ひとり旅の高揚感が、私を冗舌にしたらしい。この土地ならではの四季折々の楽しみやペンションを始めたいきさつ、私が思い悩んでいる就活のこと。途切れることなく続く会話を通じて、胸の奥がじんわり熱くなっていくのを感じた。
1泊2日で得たものは、卒論の資料だけではない。この先待ち受ける試練に立ち向かう決意を新たに、まだ春浅い信濃町に別れを告げた。【東洋大・荻野しずく】