冬野菜が店頭に並ぶ季節になった。茨城県つくば市は、都市近郊型農業が盛んな地域の一つ。ここに、農家を手伝いながら現場を学ぶ筑波大学(つくば市)の「つくば学生農業ヘルパー」という団体がある。その取り組みと、彼らの目に映る農業の現場について聞いた。【上智大・川畑響子】
つくばエクスプレス(TX)で秋葉原駅から万博記念公園駅まで約45分、そこからタクシーを捕まえて10分。取材のため農家を訪れると、土のついた大根を機械にかけて洗う学生が1人。「ちょうど今農家さんが野菜を直売所に届けに行ってしまって」と、1人で作業を任されていたのは、農作業着姿のつくば学生農業ヘルパー代表の江原渉さん(筑波大生命環境学群3年)だ。学生の手伝いとは思えないほど慣れた手つきで、この日は冬野菜の大根の収穫を行っていた。
つくば学生農業ヘルパーは、つくば市の契約農家へ農作業を手伝いに行く学生サークルだ。このような援農サークルは近年全国の大学に多く存在するが、農業ヘルパーの特徴は二つある。一つ目は学生の希望シフト制で、365日いつでも手伝いに行ける体制をとっていること。二つ目は作業の対価として時給950円の謝礼金をもらっていること。大学で農業を学ぶ学生のほか、下宿生が多いためアルバイト感覚で始める学生も多いという。
設立は約20年前。当時、つくば市の農産物直売所が仲介して学生アルバイトを農家に派遣したのが始まりだ。その後、学生主体で派遣活動を行う団体を設立。規模を拡大しながら、現在約60人の学生が所属し、14件の農家へ手伝いに行っている。
設立当時からの付き合いだという契約農家の下野(しもの)清さんは「人手はいくらあっても足りないから本当に助かっている」と話す。「お金を払っているから持続するし、ちゃんと働いてくれと言えるからね」
農業は単純作業と思われがちだが効率が重要。漫然と作業をすると少しのロスが30分、1時間の遅れにつながる。派遣先から進捗(しんちょく)状況に関する指摘が届くことも。そんな中で期待に応えていくヘルパーたちの働きぶりが、信頼関係の秘訣(ひけつ)だ。
種まきや苗を畑に植える定植、葉かきなど日々の手入れ、収穫、片付けなど彼らが手伝う作業は多岐にわたり、毎回が初めての連続だという。四季を通してさまざまな作物を栽培する、つくば市ならではの飽きない1年間だ。
授業前に行うトウモロコシやイチゴの収穫は、早朝4時起き。サウナのような暑さの真夏のビニールハウスで収穫が終わったトマトの片付けをしたり、雪をかぶった土に手を入れてニンジンを収穫したり、きつい作業も思い出深い経験だ。
また、契約農家の多くは直売所への出荷を主な販路としているため、販売までを手がける、まさに経営者。作物の知識だけでなく、それらが店先に並ぶまでの苦労を知る。天候に左右され「いつの年も変わらずハラハラドキドキです」という下野さんの言葉の重みを、学生たちも農作業を通して理解しつつある。
ただ、「メンバーには農業を厳しいだけと思ってほしくない」と江原さん。団体の良さとして挙げたのは、学生に対する農業の窓口になっているということだ。もともと農業に興味がなくても、農家の方との会話やもらえる野菜を楽しみに、農業にハマっていくヘルパーも多い。「就活の相談にも乗ってもらっています」と話すのは、メンバーの近藤純さん(筑波大生命環境学群3年)。作業の合間にかわす農家の方との会話が一番の楽しみだという。
学生だからこその新しい視点もある。農業には「力仕事は男性、細かい作業は女性がやる」という従来の考え方が残っているそうだ。近年新規就農者が増えてきた所もあるが、やはり女性は少ないのが現状だ。対して就農者も多く輩出してきたつくば学生農業ヘルパーでは、女子メンバーが急増中。まだ例は少ないが、今後女子学生ヘルパーの活躍が女性就農の機運を高めるかもしれない。
酸いも甘いも知る農家の方々から多くを学ぶ学生たち。彼らは得られる学びを楽しみながらも、つくばの地の農業に貢献している自負を抱いていた。農家と学生の信頼関係は、これからも地域を支えていく。