真剣に向き合うあまり、「こうするべきだ」と考えが偏ってしまうことがある。きっと、自分の中でこうあることが自分にとっての幸せだとか正解だとか、勝手に想像しているのだろう。
就職活動でも、そうなりかけた。慎重に慎重に「この業界で、この仕事をして、こんなキャリアを積んで……」とピンポイントの理想が出来上がる。しかし、珍しく自分の中に冷静な監視役が現れて、「いや、そんなことないから。もっと視野を広くしなよ」と再考を迫った。そこで、仕事人間の祖父に、これから就職する際に明確な理想は必要か聞くと、祖父はこう答えた。「仕事で思い通りにいくことの方が少ないんだから」
働いてキャリアを積むすべをまだ知らないし、自分の適性だって詳しくは分からない。それなのに理想だけは高々と掲げ、あたかも正解のように設定し、視野を自分でどんどん狭めていた。だが祖父の一言で、輪ゴムでギュウギュウに縛った結び目をハサミでチョキンと切るように、頭がリセットされ心が軽くなった。
思い込みにもなりうる理想と、現実のバランスは難しい。具体的ではないけれど、大きく「こう生きたい」とイメージを持って就活し、社会への道が開いた。理想に沿ってではなく、自分で決めた目の前にある道を、寄り道や遠回りしてでも懸命に進むことがおそらく自分には合っている。それを自分にとっての幸せや正解にしたって良いだろう。【日本女子大・鈴木彩恵子】