新入生へこの一冊

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 新学期が始まって1カ月ほどたち、大学に入学した新入生も、そろそろ大学生活に慣れてきた頃だろう。そんな新入生に向けて、現役大学生のキャンパる記者6人が、それぞれ新生活を始めるこの時期お薦めの1冊を紹介する。慌ただしい新生活の中でも、通学時やちょっとした空き時間に読書をしてみてはいかが? 充実したキャンパスライフを送るための手がかりがきっと見つかるはずだ。(書名、著者名、出版元、発行年、税込み価格の順)【まとめ、上智大・古賀ゆり】

 ◆「あなたにもある無意識の偏見 アンコンシャスバイアス」=北村英哉 河出書房新社 2021年 979円

普段なるべく偏見を持たないように意識しているという人は多いだろう。でも、誰もが無意識の偏見を持っているとしたら……。

 例えば、男性らしさと聞いて自己主張や出世意欲を、女性らしさと聞いて優しさや協調性を想像するかもしれない。しかしこれは誰もが持っていたらいいことで、性別にこだわる必要はない。あるべき特性を性別にひも付けて持っていると、配慮に欠けた決めつけをしてしまいがちだ。

兄2人と育った私は、よく父から「女の子はそんな言い方をするんじゃない」と言われてきた。乱暴なもの言いは確かにいけない。しかし乱暴に聞こえる言い方は、性別に関係なくやめた方がいいはずだ。

 著者の北村英哉さんは東洋大学教授で、社会心理学、感情心理学を専門としている。本書では、不適切な発言の背後にある無意識の偏見に焦点を当て、その原因や解消法についてわかりやすく解説している。

2 恋愛を「機会費用」で分析

 ◆「あなたの人生は『選ばなかったこと』で決まる」=竹内健蔵 日本経済新聞出版 2017年 935円

 手作りのプレゼントをもらった時、なぜ感動するのか。また片思いや失恋のつらさからは、どうやったら逃れられるか。実はこれらはすべて、経済学における「機会費用」という考え方で大方説明がつく。

人生は選択の連続。何かを選ぶ際、それ以外の選択肢よりも「良い」と思ったからその選択をするわけだ。機会費用とは、その選ばなかった方の選択肢を選んでいたら得られていたであろう価値のことを言う。

 手作りのプレゼントに感動するのは、相手がもしかしたらもっと楽しいことに時間を割けたかもしれないから。他の選択肢を捨てて、自分のためにプレゼントを用意してくれたことをうれしいと感じるのだ。

 経済学者の著者は本の中で、例えば恋愛のような、一見経済学とは無縁の非常に人間くさい物事を機会費用だけで分析していく。私自身、経済学を学び始めたばかりの頃にはこのことに大変驚かされた。恋愛を経済学で? と半信半疑の人も、読後にはきっと経済学を身近に感じるのではないか。【東京女子大・津田萌子】

3 境遇嘆かず輝くために

 ◆「置かれた場所で咲きなさい」=渡辺和子 幻冬舎 2017年 605円(文庫版)

 「こんなはずじゃなかった」。新しい環境に身を置いた際、思い通りにならないことがあると、つい文句を言いたくなるだろう。

 シスターである著者は、修道生活の中で、思いがけない配属に戸惑ったことがあった。そんな時、一人の宣教師に「置かれたところで咲きなさい」という言葉が入った詩を紹介された。そのおかげで著者は、不満足な現状を他人や環境のせいにして、自分の苦労を「分かってくれない」と不平不満を持つだけの“くれない族”になっている自分に気づいたという。

 「置かれた場所」の居心地が良いとは限らない。そんな環境でも「花を咲かせる」、すなわち自分の良さを発揮するためには、境遇を嘆くより自分自身で幸せをつかみ、輝くための努力しなければならないのだ。

 大学はクラスや時間割があった小中高と異なり、自ら行動を起こさなければ友人や自分の居場所を作れない。そんな環境の中で自分らしさを発揮し、充実した生活を送るためのヒントをこの本から手に入れてほしい。【上智大・古賀ゆり】

4 リポート作成の参考に

 ◆「三行で撃つ <善(よ)く、生きる>ための文章塾」=近藤康太郎 CCCメディアハウス 2020年 1650円

 文章で読者の心をつかむためにはどうしたらいいのか。ありきたりな文章を書いてしまいがちな私が大学入学前に読み、今でも参考にしている書籍の一つだ。

 この書籍には文章を上達させるための25のコツが書かれている。新聞記者や作家の経験を持つ著者が、文豪の作品の有名な書き出しや日々の新聞記事を例として挙げ、自身の経験をもとに何が重要なのかを簡潔に述べている。

 個人的には「常套句(じょうとうく)をなくせ」が参考になった。文章をきれいにまとめたい時によく決まり文句を使ってしまう。でも独自性のある文章を書くには、借り物の表現はない方がいいのだ。

 本書のタイトルの「三行で撃つ」は、初めの3行で読者を引き込むということ。社会学の講義リポートで気になる問題の調査と考察をした時には、本書で学んだコツが大いに役立った。書き出しで短くはっきりとした文章を書き、読者が興味を持ってくれるよう工夫したのだ。大学でリポートを作成する機会は多く、本書はきっと参考になると思う。【日本大・村脇さち】

5 人生に意味与える道

 ◆「モリー先生との火曜日」=ミッチ・アルボム NHK出版 2004年 1045円(普及版)

 この本は、米国のジャーナリストである著者が、自身の体験に基づいて書いた感動のノンフィクション。著者はスポーツコラムニストとして多忙な日々を送る。そんなある日、テレビで大学時代の恩師、モリーが難病を抱えていることを知り、毎週火曜日に彼の家へ訪れることになった。

 死を待つモリーは著者に生涯最後の授業をする。テーマは「人生の意味」。「人生に意味を与える道は愛すること、自分の周囲や社会のために尽くすこと」とモリーは言う。そして愛を得るためには人との関わりが大切で、「相手が望んでいることは何か、常に相手の気持ちを読み取り思いやりをもって接することが重要だ」と彼は助言する。

 モリーの周りには彼を心配し常に多くの者が会いに来る。なぜなら彼は一つ一つの出会いを大切にし、相手に愛を伝えてきたからだ。短い学生生活を有意義に過ごすためには、人間関係が重要だ。常に感謝の心を持つこと、そして皆に愛を伝えることの大切さを、この本は教えてくれる。【成城大・新井江梨】

6 ここにいる自分を認める

 ◆「四畳半神話大系」=森見登美彦 KADOKAWA 2008年 748円(文庫版)

 大学3回生の主人公は、友人の小津と人の恋路の邪魔を画策し、成績は低迷。堕落した日々を過ごしていた。有意義な学生生活から脱線し続ける一方、理想の学生生活を渇望する彼は、四つの並行世界に迷い込んでいく。しかし彼は、どの世界を選んでも納得がいかず、選択を後悔し、こう叫ぶのだ。「私の薔薇(ばら)色のキャンパスライフはどこだ!」

 その時、主人公の師匠にあたる人が言った「今ここにある君以外、他の何者にもなれない自分を認めなくてはならない」というセリフ。コロナ禍で思い描いた大学生活を送れず、主人公の叫びと似た気持ちを抱いたことがある私は、この言葉を幾度か思い出し、背筋を伸ばすことができた。

 誰しも一度は考える「あの時こうしていれば今ごろ……」という後悔は無駄だ。理想を夢見る前に、今ここにいる自分を認めなくてはならない。バラ色とは言えなくとも、愚かさや若さ故の失敗も多く経験する、雑多な色をした学生生活をいとしく感じられる小説だ。【日本女子大・安藤紗羽】

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