なにコレ!? 「空き家改修」で地域に貢献 芝浦工大生らの「プロジェクト」

なにコレ!?
「ヨリドリプロジェクト」で使う空き家の研修を行う学生たち。町内の宿泊施設に寝泊まりし、休みを利用して作業を行っている=静岡県東伊豆町で

 少子高齢化や過疎化が進み全国で深刻化する空き家問題。使い手のない施設や空き家の増加に悩む自治体や地域住民と連携し、こうした建物を改修して再利用する活動を行い注目されているのが、芝浦工業大学の建築学専攻の学生らで作る団体「空き家改修プロジェクト」だ。学生たちが改修実績を積み上げている静岡県東伊豆町を訪れ、その活動現場を取材した。【早稲田大・榎本紗凡】

観光客と住民交流の場に

 伊豆半島の東側に位置する同町稲取は温泉で有名な観光地だ。海が一望できる道路に面した2階建ての空き家で、つなぎ服にマスク姿の学生らが忙しく床の塗装作業に取り組んでいた。

 「ヨリドコロプロジェクト」と名付けたこの改修作業に携わっているのは、同団体の「稲取設計室」に所属する学生11人。建物を所有する地元の旅館経営者から同大OB経由で依頼を受け、「観光客と地域住民が交流できるよりどころ」をコンセプトに、今夏から改修を行っている。学生たちは町内の宿泊施設に寝泊まりしながら作業し、来年2月にオープンさせる予定だ。改修費用は依頼主負担だが、不足分はクラウドファンディングなどで補う。

東伊豆町と重ねた協議

 同団体が発足したきっかけは2014年、インターンシップ(就業体験)で東伊豆町と縁があった同大の学生らに、町役場から小さな集会所の改修を持ちかけられたことだった。大学の授業で図面や模型を扱うことには慣れていても、実際に建物を施工する機会はめったにない。大学での学びを実践する機会を確保すべく、町の提案を受けた学生らが発足させたのが、同団体だった。

 改修費用は約50万円。資金確保のため同大の支援制度を利用した。ただ、地元住民の意向を十分くみ取ることなく改修を進めたこの集会所は、地元住民にほとんど使われることなく、建物の再利用・有効活用という目的は果たせないまま終わった。

 この苦い経験が、同団体が東伊豆町での活動に本腰を入れて取り組む契機になった。若者を担い手とする空き施設再利用の取り組みで地域振興を図りたい町役場。その期待を背景に、同団体は「改修で地域活性化に貢献する」方針を明確化した。また町役場と協議し、地元住民らと改修計画や工程について話し合う「東伊豆町空き家等利活用推進協議会」を発足。信頼関係の構築を図った。

 話し合いを重ねる中で、無償で作業に当たる学生へのサポート体制も固まっていった。町は改修の依頼主として空き施設や材料費などを提供。学生の交通費や食費、宿泊費も援助する。住民は工事の指導、助言などをするボランティアとして参加することになった。

 同団体は15年以降、同協議会での話し合いをベースとして、消防団の器具置き場跡地を「シェアキッチン」に、旅客船会社のチケット販売所を「ワーキングスペース」に、高原エリアの倉庫を「宿泊施設」に改修するなど、東伊豆町内で3件の事業を手掛けた。

「使い続けることが大切」

 改修後の施設運営には、同団体のOBが多大な貢献を果たしている。団体創設メンバーの一人である荒武優希さん(31)は16年、自らが中心となって改修施設の運営を手がけるNPO法人を設立。同年、東伊豆町に移住して学生と町、地域住民の橋渡し役を務めている。荒武さんは「運営はなかなか難しいが、利用者らの輪が広がれば町は盛り上がるし、災害時などに使い続けてもらうことの大切さを感じる」と語った。

 東伊豆町での取り組みは今夏、新たな段階に入った。「ヨリドコロプロジェクト」は初の民間物件。稲取設計室長で、同団体の次期代表でもある和田卓巳さん(20)=建築学部建築学科SAコース3年=は「これまでは協議会を通して町や地元の方々に支援していただいたが、今回は民間事業のため、行政からの支援は受けづらい状況。当初は作業が進まずお手上げに近い状態だった」と振り返る。

 だが計画始動から半年たった現在、現場では専門技術を持つ職人ら地元の方々が自然に手伝い、作業が順調に進んでいる様子が見て取れた。毎日現場に出向くという居酒屋店主は「不安と期待が入り交じった気持ちだが、無事成功してほしい」と話した。

注目集め取り組み拡大

 東伊豆町を繰り返し訪れることで、空き家問題以外の課題も見えてくるという。稲取は坂が多い。調査したところ100脚以上のベンチがあることが分かったそうだ。「買い物をする時疲れる」という住民の声をすくい上げ、老朽化したベンチを改修する「イドバタプロジェクト」も今夏、新たに始動させた。

 東伊豆町での取り組みは、学生が手がける地域活性化の優れた実践例として全国の自治体に広く知られるようになった。127人の学生が所属する同団体は現在、東伊豆町だけでなく、神奈川県や三重県、富山県でも改修プロジェクトを手分けして実践している。さらに多くの自治体から打診を受けているというが、和田さんは「本当に地域活性化につながるかどうかを判断軸として、慎重に取り決めたい」と話している。

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