古都・京都に来月15日、地域の子どもたちのための「居場所」となることを目指す、小さな図書館が完成する予定だ。その名は「こどもみらい図書館」。図書館の開設を企画したのは、京都市に本拠を置く大学生主体のまちづくり団体「一般社団法人京都すまいるプロジェクト」。図書館づくりに取り組んだいきさつや、まちづくりへの考えについて尋ねた。【駒沢大・根岸大晟】
同団体は2012年に設立され、今年で10年になる。代表を務める須藤篤志さん(38)が設立者だ。「京都の町並みが私自身大好き」と語る須藤さん。「好きになればなるほど、貧困や空き家の問題、増えすぎた観光客が住民や景観に及ぼすマイナスの影響といった課題にも気付いた」ことが、団体設立の理由だったと話す。
課題克服の取り組みを学生とともに行うことにしたのは、「若者のアイデアや発想、学ぶ力といった伸びしろの部分に期待した」ためだという。現在の学生メンバーは立命館大、同志社大など京都府内外の関西圏の大学に通う23人。代表と副代表の社会人2人を合わせた25人で活動している。
愛着持ってほしい
地域活性化の観点から学生たちが発案し、現在、同団体として取り組むプロジェクトは六つあり、その一つが「こどもみらい図書館」づくりだ。
計画が始動したのは20年秋で、発案者は現在社会人の岸谷京香さん(23)。岸谷さんが子ども時代に学校でのいじめや家庭内の問題で居場所がないと感じていた時、図書館で毎日触れる本が心のよりどころだった経験が土台になったという。
プロジェクトを担当する現在のメンバーは5人。現リーダーの立命館大産業社会学部3年、北川茉侑さん(21)は「岸谷さんの『居場所をつくることは地域の子どもたちの支援になる』という言葉に感銘してメンバーに加わった」と話す。
古い町並みが魅力の京都だが、子どもが安心して遊べる空間が減少しているという事情もあった。図書館づくりには、「地域の子どもが自由に、安心して過ごせる居心地のよい場所になれば、子どもたちは生まれ育った場所に、より愛着を感じて成長し、まちづくりの新たな活力が生まれるのではないか」という同団体の思いが込められている。
図書館は、同団体が借り受けて活動拠点としている京都市中京区の「WaGaYa(わがや)」と呼ぶ2階建ての町家を活用。築年数約80年のこの町家は現在改装中で、図書館は6畳間の和室1部屋と3畳の和室2部屋がある1階部分を使う。2階もフリースペースとし、地域の人々との交流の場所として活用していく。
本の寄付を募る
主な利用対象と想定しているのは小学生。本は、SNS(ネット交流サービス)を通じて知り合った絵本に詳しい支援者らの協力をもとに、「クリエーティブな本」「世界を知ってもらえる本」など五つのコンセプトに基づいて選書リストを作成した。オープン時には約100冊を用意するが、蔵書拡充のため、今後この選書リストをSNSなどで公開し、本の寄付を募るという。
今年2月末には、図書館開設を告知するチラシを「WaGaYa」周辺などで配布した。「チラシを見てわざわざ足を運んでくださった年配のご婦人2人を目にし、地域の方々に応援されていると感じた」と北川さんは話す。
改装費用は同団体が確保した自己資金でまかなう予定だったが、老朽化した建物の補強費用が膨らんだため、今年3月からは、クラウドファンディングを実施した。支援者からは「すてきな取り組みに共感が持てた」「本が好きで、特に子どもの頃は学校の図書室によく通って、いろんな本に触れていた記憶があります」などと、プロジェクトに共感する声が寄せられた。北川さんは「支援してくださった方々からのメッセージは、開館に向けての準備が大変な中、大きな励みになった」と話した。
開館を目前に控えた「こどもみらい図書館」。北川さんは「図書館が本を読むだけの場ではなく、子ども同士、また私たち学生スタッフとおしゃべりする楽しい場として、『また来たい』と思ってもらえる場にしていきたい」と抱負を語った。
開館した図書館が地域に根付くかどうかは、子どもだけでなく、幅広い世代の地域住民の支持や理解がどれだけ得られるかにも左右される。同団体の場合、活動拠点を京都市内の別の場所から現在の「WaGaYa」に移してまだ約1年と日が浅いだけに、なおさらだ。代表の須藤さんは「地域とのつながりをどう深めていくかが今後の課題になる」と、団体としての今後の努力の必要性を指摘。その上で、「こどもみらい図書館が、地域の方々ならだれでも知っている、大人でも集える場所になってほしい」と今後の展望を語った。
図書館は週に2日もしくは3日、午後2~6時に開く予定だ。