大楽人 頑張るきっかけ作りに 揺れる気持ちにより添う 受験指南の大学生ユーチューバー「おくら」さん

大楽人

年明けとともに本格化する大学受験シーズン。高1、高2の時から対策に頭を悩ませる人も多いだろう。そんな悩める高校生から絶大な支持を集めているのが、早稲田大学の3年生で、大学受験の勉強についてさまざまな助言をする内容の動画を配信し続けている「おくら」さん(21)だ。受験生が勉強を頑張るきっかけを作りたいと話す彼女の人気の秘密に迫った。【早稲田大・山本ひかり】

 おくらさん(実名は非公表)は現在、同大教育学部の英語英文学科に在学している。彼女が動画投稿サイト「ユーチューブ」に設けている「おくら 早慶勉強法チャンネル」は、2020年春の開設から2年近くたった現在、チャンネル登録者数は6万8600人。これまでに139本の動画を配信し、累計再生回数は800万回を超えている。

 動画配信を始めた直接の契機は、新型コロナウイルスだったという。「コロナで授業がオンラインとなり、大阪の実家に帰省したが、やることがなかった。家には参考書がたくさん残っていたため、軽い気持ちで始めた」という。最初は海外留学に必要な情報や、英語の独学勉強法に関する動画を投稿していたものの、視聴者から「早稲田に合格するための方法を聞きたい」というコメントが増え、受験生に向けた発信を行うようになった。

自身も動画で発奮

 配信する動画を勉強に関する内容にしたのは、おくらさん自身の経験が大きく関わっている。高校時代、バスケットボールに打ち込んでいたおくらさんが3年生の時、「早慶は3カ月で射程圏内になる」と訴える内容の動画に出合った。配信者は、慶応大学出身で現在は起業家としても活動している「わっきー」さんだ。動画に影響され、それまでは単なる憧れだった早大に自分も行けるかもしれないと思い、勉強に本腰を入れ始めた。そして塾や予備校に行かず、独学で現役合格を達成したという。

 おくらさんが配信する動画は、塾や予備校のように実際の問題の解き方を教えるわけではない。お薦めの参考書や利用方法、不安な気持ちをコントロールする仕方などを含め受験に向かう上で必要になる「勉強法」を伝えるのが大きな特徴だ。そこには、自分自身がたまたま見た動画をきっかけに受験勉強に本腰を入れて取り組めたように、「まず受験に興味を持ち、頑張ろうと思ってもらえる手がかりを作りたい」という、おくらさんの思いが込められている。

 これまで配信した動画で人気なのは「単語を効率よく覚えられる方法!」や「現役合格おくらの夏休み1日ルーティーン」「受験1ケ月前に諦めかけたけど早稲田に受かった方法」など。動画のテーマを決める際は、おくらさんが開設するSNS(ネット交流サービス)アカウントに寄せられる質問やコメントを参考にすることもあるという。

 勉強方法などをアドバイスする動画配信者は増えつつあり、「教育系ユーチューバー」とも総称されている。競合する配信者は多いが、おくらさん自身は「受験生に近い立場で助言できる現役の女子大生であること」が、他の配信者との差別化のポイントだと考えている。他の教育系チャンネルに比べても女性視聴者が圧倒的に多く、「親近感を持ってくれているのではないか」とおくらさんは想像する。

経験に基づく言葉

 動画内容についてコメント欄などでよく目にするのは、「説得力がある」という感想だ。それにはおくらさんの動画での語り口、話の伝え方が影響している。例えば、「模試でよくない判定を取ってしまった。最初は落ち込んでいたが、こうやって考えることで気持ちを切り替えることができた」というように、自身の経験をもとにして、その時感じていたことをできるだけ具体的に言葉で表す。もちろん自分の経験が受験生全員に当てはまるわけではない。他の意見も尊重したうえで、でも自分はこう思うと伝える姿勢を崩さないように気を付けているという。

 記者自身、受験生時代に一視聴者として動画を見て感じたのは、受験生の揺れる気持ちにうまく寄り添うおくらさんの姿勢だ。なかなかやる気が出ないときには叱ってほしいが、頑張っているときにはほめてもらいたい。そんなわがままな視聴者に時には優しく、時には厳しくという姿勢で接しているところが、受験生から信頼を得ている要因だろう。

 軽い気持ちで始めてみたという動画投稿だが、成否はさておき、まず行動に出たおくらさんの「何事もやってみないとわからない」という思いは、受験生に伝えたいメッセージの一つでもあるだろう。

 「最近は、この活動以外にも挑戦してみたいことが増えている。それでも、少なくとも大学生のうちは教育系ユーチューバーとして活動したい」と語るおくらさん。受験生のモチベーションの一つになればと、自分にできる限りの発信を続けていく。そして、「伝えたいことを広める力や、大事に思う価値を届ける力が身についたので、社会に出てからも役に立つのではないか」と、将来を見据えている。

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