なにコレ!? 子どもの居場所、駄菓子屋に 大学生運営、東京・足立区の商店街

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「irodori」の店内。三角屋根を模した棚の意匠には、「店が家のように居心地の良い空間になるように」という願いが込められている


 今月17日、東京都足立区関原の商店街に、さまざまな事情から学校や家庭で過ごしにくさを感じている子どもたちのための、新しい「居場所」が生まれた。ボランティアの大学生が中心となって運営する、駄菓子屋「irodori(彩り)」だ。こうした施設がなぜ必要と感じたのか。「居場所」づくりを推進してきた団体に、取り組みの背景や目的を尋ねた。【一橋大学・鹿島もも、写真は東洋大・荻野しずく】

 オープン初日、広さ約40平方メートルの店内には、約90種類、税込み価格10~200円の駄菓子が所狭しと並べられ、大学生スタッフが開所式で「多くの方からの支援があった」と感謝した。子ども同士で来店し、自由に菓子を選ぶ姿が印象的だ。一人の子が「100円で好きなお菓子を買った」と袋いっぱいの菓子を見せてくれた。

 2階建ての建物の1階を借りて構えた店の奥には、約28平方メートルのフリースペースがあり、子どもたちは出入り自由。駄菓子を食べたり、おしゃべりしたり、思い思いに遊べる。壁の一方は、白墨で自由に描画ができる黒板を配置。新型コロナウイルスまん延下の開店ということもあり、独自のマニュアルを作って感染対策には万全を期している。

 「irodori」の母体は、足立区や東京都墨田区で学童保育施設を運営するNPO法人「Chance For All」(以下CFA)だ。社会人24人、学生12人のメンバーが所属する同団体は、親の収入減などで十分な養育を受けられない「子どもの貧困」問題の深刻化を踏まえ、2019年から一部の家庭を対象に、学童保育施設の月謝を無料にする新たな取り組みを始めた。

 ただ第三者が子どもの支援を行うには、保護者の了解が不可欠であることは変わらない。学童保育施設の運営のみでは、理解度の高い保護者のもとに暮らす、限られた子しか支援できないのではないか――。CFA代表の中山勇魚(いさな)さん(36)によると、CFA内ではこうした問題意識のもと、子どもたちが、自分の意思のみで来ることができる放課後の居場所をつくりたい、という機運が高まっていたという。

 この新たな居場所づくりを中心となって進めたのが、CFAでボランティアをしている、青山学院大国際政治経済学部2年の飯村俊祐さん(21)だ。中山代表らとの話し合いでは、子ども食堂や、児童館を作る案なども挙がったが、最終的に駄菓子屋にフリースペースを併設する「irodori」プロジェクトが始動した。

 飯村さんによると、駄菓子屋を選んだのは、「他の施設より子どもたちの日常に溶け込んだ見守り活動ができること、子どもたちからの、毎日開いていてほしいという要望にも応えられること」などが決め手だったという。コンセプトは「自分のことが好きになれる場所」。子どもたちが大人も含めさまざまな人々と関わる中で、自分を好きになること、ボランティアスタッフ自身も「irodori」に関わることに誇りをもつことを目標に掲げた。

 店の名前には、「全く違う色同士を混ぜたとき、新しい色が生まれるように、全く違う個性をもつ人同士が交わり合ったとき、新たな可能性が生まれる。世代や性別を問わず、たくさんの人が交わり合うことができる場所にしたい」という、学生スタッフの思いが込められている。

 店を運営する学生スタッフは9人。店内空間は、スタッフの一人で建築・空間デザインを学ぶ東洋大ライフデザイン学部3年の工藤綾乃さん(20)が設計したものだ。工藤さんによると、「飯村さんと何度も意見交換した結果、可変的で、居心地の良い家のようでいて、来客がそれぞれの色を加えられるような、真っ白なキャンバスという空間像が決まった」という。

 今年5~6月には、「irodori」プロジェクトの周知と開店資金確保のため、クラウドファンディングに取り組んだ。その結果400万円を超す寄付金が集まり、店舗物件の賃貸費用や改築費用にあてられた。

 学生スタッフの仕事は、駄菓子の仕入れ・陳列や、来店する子どもたちへの販売対応や声かけ、周辺住民など多くの人に「irodori」を知ってもらうためのPR活動など、多岐にわたる。学生が運営主体である点について、飯村さんは「子どもたちとも大人ともフラットに接し、双方のパイプ役になれる」点に意義を見いだしている。また、運営メンバーの早稲田大学創造理工学部2年、久我凜太郎さん(20)は「コロナ下で子どもたちは理不尽な我慢を強いられている。学生である自分たちが動くことで、子どもたちに少しでも楽しみが生まれるのであれば、コロナ下でも活動する価値がある」と強調する。

 店の営業時間は午後2~7時。定休日は火曜日。駄菓子の売り上げは、店の運営資金にあてられる。

 飯村さんは今後について、「足立区外にも、子どもたちの放課後の居場所について、同じ考えをもつ人、特に同世代の仲間を増やしたい。そして『irodori』をできるだけ長く続け、学童に通っていなかったり、日中に家族が在宅していなかったりする子どもたちの新しい居場所のモデルにできれば」と意気込んでいる。

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