2019/08/13 すたこら

女二人旅

 夏休み早々、母と1泊2日の旅に出た。大阪でのフィギュアスケートアイスショーに、神戸の異人館街観光。母の趣味を詰め合わせた。「女2人旅って楽しいね」。その言葉にちょっぴり感動する。「母と娘」ではなく「女2人」。すっかり大人になった気分だ。

 帰りの新幹線、まどろんでいると隣から焼き肉弁当のにおいがただよってきた。急に目が覚め、空腹が気になる。ちょっと分けてもらおうか。いやいや、母だっておなかが減っているはず……。

 「食べる?」。脳内バトルを見透かすように弁当が差し出された。じゃあ一口だけと手に取ったが最後、完食手前まで箸を進めてしまった。

 「おいしいね、ありがとう」。そっと弁当を戻すと「全部食べていいよ」。申し訳ないと思いつつ、食欲には勝てなかった。空になった箱を前に、思わず「まだまだ子供だ」とつぶやく。母は「お母さんだっていつまでもおばあちゃんの子供で、そんでいつまでもあんたのお母さんなんだよ」と笑った。

 とうの昔に背を抜き、お小遣いもなくなった。ここ数年は終電で帰り、家族の寝顔を拝むことも多い。それで大人になったと思っていたが、私はいつまでも母の娘なのかもしれない。

 親の優しさを感じておきながら巣立ちを目指すのはわがままだろうか。いつまでも子供だとしても、次の2人旅では最後の一口を譲れるくらいにはなっていたいものだ。【一橋大・川平朋花】

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