発達障害、支え合い「自分らしく」 当事者の学生がコミュニティー「BeU」
「普通」のことができない。そう悩む大学生たちに寄り添う団体がある。大学生発達障害当事者コミュニティー「BeU」だ。生きづらさを抱えた若者たちを支え続ける、彼らを取材した。【筑波大・西美乃里、写真は一橋大・川平朋花】
悩み相談会/講演会で理解広め/就職支援
発達障害の人には、脳機能の発達の凸凹が原因で、さまざまな苦手がある。そのため、言葉に表されていない感情をくみ取ることが苦手だったり、集中が途切れやすかったり、音読がうまくできなかったり。もともとの苦手が、入学や就職といった環境の変化を機に目立ち始める。特性が重なって表れることもあり、表れ方の濃淡もさまざま。このため、障害だとわかりづらく理解されにくいことが多い。「努力していない人」「できない人」と一蹴されがちだ。
そんな彼らが「自分らしく生きる」ために、創設されたBeU。団体名は「Be Yourself」の略だ。2017年の初め、自身も発達障害に悩む大学生を中心に誕生した。約10人のメンバーには、何らかの発達障害の傾向がある学生も多い。彼らは、活動の中で自然と集まってきたという。
活動内容は大きく三つに分かれる。発達障害に悩む大学生・院生・専門学生を対象に行われる「当事者会」と、彼らへの理解を広めるための「講演会」。そして、大学生当事者に働くイメージを広げてもらう「キャリア見学会」だ。
なかでも活動の中心となっているのが大学生発達障害当事者会。月に1、2回、公共施設などで開催している。1回の参加者は平均して20人ほど。今年3月には、28回目の開催を迎えた。募集はホームページやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で行う。対象を学生に絞ることで、参加者同士の距離感を縮め、悩みを共有しやすい環境を作っている。
発達障害に悩む人は、会話が苦手なことがある。そのため、当事者会ではスタッフも話し合いに加わる。クッション役になることで、打ち解けやすい雰囲気にしているという。「ただ悩みを吐き出すだけじゃなく、(一緒に解決策を考えるような)建設的な議論の場を設けたかった」。団体の中心メンバーの一人で、3月末に大学を卒業した小林暉(めぐる)さんは、そう語る。
当事者会の参加者が団体のメンバーになることもある。精神保健福祉士を目指す大学2年生の椎名佑太さんも、当事者への支援の仕方を探るなかで、BeUと出合った。「当事者だからこそ、できることもある。自分も支援する側に回りたい」。そう考え、団体に入った。
発達障害に悩む若者の心のよりどころになっているBeU。その実感は、さまざまな場面で感じるという。はじめは緊張していた参加者が、イベントが終わるころには打ち解けた笑顔で話していること。継続的に顔を出してくれる人が増えたこと。「居場所」は少しずつ大きなものになりつつある。
だが、活動の輪が広がっているからこその苦悩も生まれ始めた。「講演など、自分たちが人前で話すことで、当事者でも明るくいるべきだという意見が広まってしまうのは避けたい」。小林さんは、あくまでもありのままを大切にしている。
発達障害への偏見はまだ根深い。後天的なもので、本人の努力でどうにかなるもの、と誤解されがちだ。小林さんは「発達障害という名前が、マイナスイメージと結びついてしまっていると感じる。それ自体は先天的な特性であり、それ以上でも以下でもない」と語る。より多くの人の生きづらさを解消したいと、今年からリーフレットを作製、配りはじめた。困ったエピソードの具体例を漫画にして盛り込み、対策もまとめている。
周りの人は発達障害の当事者たちと、どう向き合うべきか。疑問を投げかけた記者に、小林さんは次のように語ってくれた。「発達障害が原因で問題が起こることも確かにある。そのときは、当事者あるいは周囲の片方だけが頑張っても解決は難しい。特性と環境とのミスマッチが原因なので、当事者の頑張りも、周囲の配慮も、どちらも必要です」
今後の目標は、より長期的な活動をすること。学生団体はフットワークが軽くエネルギッシュだが、学生生活の期間は限られている。そこで、法人格を取得してより安定した活動をしていくことも検討中だ。
取材の2日後には、箱根へ合宿に行ったBeUのメンバーたち。温泉で疲れをとるのかと思いきや、会議の予定がぎっしりだそうだ。記者も思わず脱帽してしまった。
2~8日は発達障害啓発週間。これを機に、発達障害とそれを支える人たちについて、思いを巡らせてみてはどうだろうか。
■ことば:発達障害
自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症の三つの総称。各特性の境界が明確ではなく、複数の症状が同時に表れることもある。文部科学省が2012年に行った調査によると、全国の公立小中学校に在籍する児童5万人のうち、6.5%に発達障害の傾向があった。