大楽人 気候変動阻止、輪広げる エシカルコスメ講座主宰、慶応大学環境情報学部・露木志奈さん

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取材中も取材後も、終始笑顔の露木さん=東京都品川区で


倫理的、道徳的を意味する「エシカル」。そんな意識を取り入れた、人、環境、社会に優しい化粧品「エシカルコスメ」を作りながら環境問題を学ぶワークショップを主宰する、慶応大学環境情報学部2年の露木志奈(しいな)さん(19)。温暖化など人類を脅かす気候変動が深刻化しているが、その「気候変動を食い止めることが私の使命」と語る露木さんに、思いを聞いた。

■天然素材の口紅から

 従来の化粧品は多くの化学物質が含まれているが、露木さんのワークショップで扱うのは、天然素材だけを使った口紅のみ。露木さんが自ら研究を重ねて開発した口紅を一緒に作ることで、参加者に環境への意識を高めてもらうことが狙いだ。昨年の4月から始め、これまで40回ほど開催してきた。参加者数は女性を中心に500人に上る。

 コロナ禍の現在は製作キットを参加者に郵送し、オンラインで受講できるように工夫し、全国から申し込みが来るようになった。家族やカップルでの参加もあるという。

 好奇心が旺盛で、「興味を持てばどんなことでも挑戦しようと思ってしまう」と自己分析する。転機が訪れたのは2015年、中学3年生の秋。受験で英語に取り組むうちに、実際にしゃべりたいと思うようになり、留学に興味を持った。母から「英語以外も学べる学校なら」と条件を付けられ、インターネットで学校を探した。

■留学が転機に

 選んだのは、徹底した英語教育と環境学習を実践し「世界一エコな学校」と呼ばれるインドネシアの「グリーンスクール」。ホームページを見て、自由な校風にひかれたという。この学校との出合いが、露木さんを環境問題に目を開かせる決定的な役割を果たした。

露木さんが開発したコスメキット。口紅2本分で、価格は6500円(税・送料込み)=本人提供

 特に心を動かされたのは、この学校で履修した気候変動の授業だった。気候変動の原因、解決策などを考えたとき、問題の原因が全部自分に返ってきたという。「幼い頃から自然が大好きな自分も、無意識に知らないうちに問題に加担していることに気づいた」

 18年はポーランド、19年はスペインで開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)に参加したことで、「環境破壊の加担者から解決者になりたい」との思いは、日に日に増していく。

 自分でできることを模索するうちに、着目したのが化粧品だった。妹が化粧品で肌荒れを起こしたことがきっかけで、中学生のころから「もっと肌に優しいコスメはないのか」と自分で化粧品を作り始めていたが、留学時代にさらにのめり込んで成分や製造方法の研究を重ね、これがコスメ作りのワークショップ、という事業に発展した。

 グリーンスクール卒業後、「日本で気候変動問題の重要さを伝えたい」と考えて帰国し、19年9月、慶応大学環境情報学部に入学した。帰国を選んだのは、「気候変動の危機について知る人が少ない」と思ったためだ。日本では近年、台風や集中豪雨など自然災害に見舞われる頻度が増え、被害も大きくなっている。その背景に指摘されるのが気候変動だ。「順番は必ず自分に回ってくる」と環境破壊の影響に警鐘を鳴らす。

 ワークショップの傍ら、講演会、メディアへの取材対応、SNS(ネット交流サービス)投稿など、露木さんは精力的に情報発信している。気候変動に関心を持つ人を増やすために大切にしているのは「押しつけない」こと。声高な主張で人に無理に変化を求めるより、「自らアクションを起こして周りを刺激した方が影響を与えられると気づいた」ためだという。その努力は、ワークショップの参加者の増加など、少しずつ成果となって表れている。

■中高生の反応に期待

 自分が旗振り役となって、周りの人々に影響を与えてきた露木さん。しかし「影響を受けた」経験もあった。先月下旬、大阪の高校でSDGs(持続可能な開発目標)や環境問題について講演した際、大人たちに話す際の反応とはまったく違う、自分事として話を聞いてくれる姿勢に驚かされた。「この先何十年も生きていく若い世代に対して伝えることに意義があるのではないか」。この経験が引き金となり、大学は今年度の後期から休学することを決意。ワークショップを続ける傍らで「中高生の心に刺さるプレゼンテーション」を日々研究中だという。

 「これこそ自分にしかできないこと。大学は待ってくれるけど気候変動は待ってくれない」。いかに多くの人にアプローチできるかにこだわり、今後も発信は続けていきたいという。ワークショップもその手段の一つとして行っているため、化粧品メーカーで協力先が見つかれば共同開発などにも取り組むつもりだ。

 「大切なのはインパクト。『こういう生き方があるんだよ』という一つの選択肢を提供し続けたい。その後の消費者の選択が、地球を変えると信じている」と露木さんは話す。【国学院大・原諒馬、写真は津田塾大・畠山恵利佳】

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