読見しました:「愛着」

 待ち合わせに間に合うかな、と腕時計を見て驚いた。白い文字盤の上を、金の長針がぷらぷらと揺れている。短針も秒針も正確に時を刻んでいるのに、長針だけが外れてしまったようだ。待ち合わせた友人に見せると笑われた。手元の時計に目をやるたび、6時の方向に針がぷらーんと垂れ下がる。あまりに間抜けだ。

 簡単に直るだろうと時計店に持っていったが、修理センターに送り、海外から部品を取り寄せないと直らないし、購入した時の金額の3分の1近い修理代を払う必要があるという。これなら、いっそ新しい時計を買った方が……と思ったが、思いとどまった。

 大学生になり、初めてアルバイトをして買った時計がこれだ。シンプルなデザインだが気に入って、販売サイトを毎日ながめ、給料が振り込まれるや否や購入した。毎日のように着けていたので、傷んだ革のベルトは交換済みで、うっかり着けたままボルダリングをして傷もつけた。3年近くの日々を共にした時計に、愛着が湧いていることに気づかされる。

 結局、修理すると決めた。だが直るまではひと月以上かかる。時間はスマホでわかるが、手元を見るのは癖になっている。仕方なく数百円の時計を買った。チープな代用品だが、こいつにも愛着は湧くだろうか。【東洋大・佐藤太一、イラストは一橋大・鹿島もも】

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