若者に能の魅力発信 大学生中心に舞台企画

 東京都渋谷区千駄ケ谷にある国立能楽堂で12日、第15回若者能公演が行われた。「若者能」とは、一流の能楽師による能の舞台を企画・運営する、大学生を中心とした団体のこと。「はじめて観(み)る方のための優しいお能」というコンセプトの下、特に若者に能を知ってほしいという思いを込め、さまざまな工夫を凝らした公演を半年以上かけてつくっている。12日の舞台に出演した能楽師で、若者能の創設者でもある塩津圭介さん(35)と実行委員の学生たちに、能の魅力や「若者能」の活動について話を聞いた。【東京大・髙橋瑞季】


 今回の公演の演目は「小鍛冶」。刀鍛冶である宗近(むねちか)が、キツネの姿で現れた神様と共に名剣を生み出すといったストーリーだ。「剣を打つというのは、御代替(みよが)わりのめでたさを表す。令和最初の若者能としてふさわしい演目だったと思う」。能楽師の塩津さんは力強くそううなずいた。

 時代の変わり目、さらに第15回という節目を迎えた「若者能」。その誕生は2004年。喜多流能楽師の家の長男として生まれた塩津さんが「日本文化を体験、考える時間を同世代の若い人たちに作ってもらおう」と思い、東京学芸大在学中に設立した。現在は、大学の垣根を越えた7人の学生と共に運営している。

参加理由はさまざま

 学生が団体に参加した経緯は「憧れの先輩がいたから」「これから先の社会でも通用する企画・運営の手法を身に付けたいから」などさまざま。元々能に興味を持っていて団体に所属した学生は、実は少数派だ。

 けれど活動を通して能に触れる中で「能のここが好き」というポイントを見つけていくという。それもまた、衣装であったり心が落ち着く空間そのものであったり、一人一人違う。「能にすごく詳しいわけではない私たちだからこそ、初心者のための能を考えることができる」と学生委員の一人は言った。活動を通して少しずつ能のことを知っていくけれど「初心の気持ち」を忘れないこともまた、大事にしているそうだ。

初めてでも楽しめる LINEで同時解説など工夫

 そのような思いを持つ彼らが運営する若者能には、コンセプトにある通り「はじめて観る方」も楽しめる工夫が盛り込まれている。演目のあらすじや能の歴史を紹介する公演前レクチャー。物語はどういう場面かを教えてくれる無料通信アプリ「LINE」でのリアルタイム解説。公演後、つい先程まで演じていた能楽師によるアフタートーク。さらに今年は新たな取り組みとして、和紙に色を入れて楽しむはがき染めワークショップと、能楽堂を歩き回って答えを見つけるクイズも。中学生以下にも来てもらえるように工夫したという。特にはがき染めワークショップには「日常生活の中から日本文化を見つけ、触れてもらいたい」という願いも込めたとのこと。

 「能、そして日本文化の根底には、到達までの『過程』を大事にする心がある。奇麗な心で、奇麗な姿勢で、というように。結果を求めがちな現代人にとっては非合理に思えるかもしれないが、きちんと過程を踏んだ人にしか達し得ない境地が存在する」。そう語った塩津さん。

 学生委員の一人は「能の魅力は、見る人の想像力に任されていること」だと言う。能の舞台上には、大掛かりな舞台セットや小道具は置かれていない。だからこそ、一人一人が舞台を見て思いを巡らすことができる。外側ではなく内を大切にすることこそが能、そして日本文化の魅力なのだろう。

留学生向けにPR

 そうした能の良さを外国の人にも知ってもらいたい。実行委員は口をそろえる。今年度は、留学生にも来てもらおうと留学センターにも公演のチラシを置いたそうだ。前年度に引き続き、英語版でのLINE解説も行った。実行委員の一人、玉川大4年の笹川佳暉(よしき)さんは「外国の人は、言葉は分からなくとも雰囲気を楽しもうとする姿勢を持っている。海外で能が有名になれば、逆輸入のように日本でも盛り上がる」と期待する。能の全てを理解するのは、日本人にも難しい。衣装や小道具、あるいは能楽師の息遣いなど、一部に注目して楽しむことを、外国人だけでなく全ての能初心者に勧めたいとのことだ。

 「何百年も続いてきた能。それはつまり人々の心を捉えて離さない何かがあったということ。先人たちが引き継いできた能というものを、これからも広めていきたい」と、実行委員長で慶応大4年の川元健右(けんすけ)さんは思いを込めた。

 初心者の立場に立って能の魅力を伝えることは、団体に入るまで能に詳しくなかった人も多い「若者能」だからこそできること。令和という新時代、より多くの人が今に続く日本文化に立ち返る時代になるかもしれない。

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