読見しました 思わぬグッドサイン

読見しました

先日、駆け込み乗車をした。いけないと分かっていても、気づいたら閉まり始めたドアに体を滑り込ませていた。「駆け込み乗車をしないでください!」。詰問調の車内アナウンスが耳に刺さる。終電間近で焦っていたとはいえ、元々中にいた乗客の冷ややかな視線を感じると申し訳なさでいっぱいになった。

 ところが、外を向いて立とうと振り返ると、ホームからこちらに向かって笑顔でグッドサインを送る男性がいた。観光客だろうか、アフリカ系の顔立ちの彼は、明らかに私に向かって「間に合って良かったね」という思いを伝えるサインをしている。

もちろん私も、電車に間に合って心の中ではガッツポーズだ。だが、張り詰めた雰囲気の車内から、元気に彼に手を振りかえす勇気は私にはない。恥ずかしげに苦笑いを浮かべることしかできなかった。もし私が彼の立場なら、発車間際に駆け込む人に驚いてにらむに違いない。次の電車に乗ればいいのに、と。だが、東京では電車が継続的に来るだけマシで、国や地域によっては何時間も待たされることもある。彼の住む国で、乗客同士が励まし合う文化があってもおかしくない。

 危険な乗車はこれで最後にしよう。でも、私もグッドサインを送れるような寛容でゆとりのある人になりたい。【上智大・佐藤香奈、イラストは明治大・佐藤梨夏】

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