1月2、3日に行われる第99回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)。毎年、注目チームや選手を取材し、紹介してきたキャンパる編集部は今回、8年連続83回目の出場で、上位入賞の実力を持つ法政大学に注目。練習の雰囲気がよい同校の主力メンバー3人に、大会にかける思いを聞いた。2人目は、ケガを克服して復活を遂げた扇育(はぐみ)選手(4年)だ。【駒沢大・根岸大晟(キャンパる編集部)】
活躍を期待されながらケガに苦しんできた扇選手が本調子を取り戻し、最初で最後の箱根に挑もうとしている。
長崎県対馬市出身の扇選手。中学校時代はテニス部だったが、進学先の同県立松浦高校で脚力を買われ、本格的に陸上を開始した。そして全国高校駅伝をはじめ多くの大会で活躍し、頭角を現した。複数の大学から誘いを受けたが、最終的に法政大を選んだ。同大出身で長距離の名ランナーとして活躍した坪田智夫氏が監督を務めており、指導を受けたいという気持ちが募ったことが、大きな理由だったという。
元々5000メートルを得意にしていたという扇選手。大学入学後に長距離の練習を積んでいくうちに粘りが身につき、5000メートルが短く感じられるほど走りが磨かれていったという。
しかし、大学での陸上生活は決して順風満帆ではなかった。2年生の夏、太ももと膝を負傷し1年近く練習に参加することができなかった。「入学当初に掲げていた、出雲、全日本、箱根の大学3大駅伝出場という目標は達成できないのではないか」。負傷当初は、陸上をやめようかという思いもよぎったという。
どん底の状況を支えてくれたのは、学生を含むチームのトレーナーだった。意気消沈した扇選手に寄り添い、ケガ再発防止の工夫や練習メニューについて、親身になって助言してくれた。「3大駅伝に出るため自分は法政を選んだ。ケガから逃げてはいけない」。最終的に自分で部にとどまると決断して、3年生の春に練習復帰した。
ケガを経験したことで、自分に合った走りを見つけるべく、練習の中で常に考える習慣も身についたという。そしてじっくりと体作りに取り組み、2022年10月に開催された出雲駅伝では4区(6・2キロ)に起用された。扇選手は区間4位。チーム順位を一つ上げる好走を見せた。チームで目標にしていた総合5位には届かなかったが、出雲駅伝での最高順位タイ記録となる総合7位で終えた。
この出雲駅伝は、扇選手にとって高校3年生の時以来の駅伝だった。「緊張はした。だが、自分が思い描いた走りを見せることができてよかった」とレースを振り返った。家族や友人からは「走りを見ることができてよかった」「箱根駅伝に足を運ぶ」などと、復活を祝福するメッセージや激励の言葉を多くもらったという。
長いトンネルを抜けた扇選手が出場を目指す箱根駅伝が、もうすぐ始まる。「復路のエース区間と呼ばれる9区で、他の大学の主力選手たちと競い合いたい。最後なので楽しんで走ることができればいい」と思いを語った。
卒業後は、実業団のマツダで選手として陸上競技を続けていく扇選手。「大学生活は、ケガをはじめつらい期間が多かった。実業団からはそういったケガにも真摯(しんし)に向き合い考えながら取り組んでいこうと言われ、入社を決断した。チーム加入後は、ニューイヤー駅伝で走り、その大舞台で区間賞を取りたい」と今後の抱負を語った。
スポーツ選手にとって挫折の原因となるケガを、自分なりの工夫で克服した扇選手。念願の晴れ舞台で躍動する姿を見せてほしい。