すたこら 大人になれたら

すた・こら

たった一人の孫である私を、いつも可愛がってくれる秋田のおばあちゃん。その家の桐(きり)タンスには、母と叔母が20歳の時に着た振り袖が眠っている。受け継ぐのは私だが、成人したにもかかわらず、その特別な一着にまだ袖を通せていない。

 早生まれのため19歳で迎えた、今年の成人の日。地元の同期生は、晴れ姿でお互いの成長を確かめ合っていただろう。対して私は、未成年のまま成人式に出席することが気に食わず、自宅で過ごした。式に出ないのだから、振り袖を着るのも誕生日の後でいいと思っていたのだ。

 しかし、そんなあまのじゃくな私がハタチになった頃、えたいの知れないウイルスが世間で騒がれ始めた。そのせいで、春休みに祖母の元を訪れる予定は白紙に。果たして、20歳のうちに振り袖を着られるだろうか……。たびたび気をもんだものの、気づけばもう秋。残されたハタチの時間も、そう長くはない。

 祖母と母とで話し合った結果、振り袖は郵送してもらい、東京で記念撮影をすることになった。とはいえ「しずくの振り袖姿を見るのが夢なんだよ」という祖母の言葉に、歯がゆい思いを抱いている。写真でも十分と、電話越しには言ってくれたけれど。本当は誰よりも、直接その目で晴れ姿を見てもらいたかった。

 来年1月、20歳と11カ月目にして、ようやく“大人の証し”を身にまとう。胸を張って着こなせるか、正直今の自分にはわからない。それでも、晴れやかな表情の写真と感謝の気持ちを、きっと祖母に送ろう。【東洋大・荻野しずく】

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