すたこら 「嫌い」と「苦手」

すた・こら

 「嫌い」と「苦手」という二つの言葉を正しく使い分けている人は、どれほどいるだろうか。私はこの1年ほど、そのことを考え続けてきた。それぞれの意味を辞書で調べると次のように出てくる。嫌い=好きでないこと、いやに思うこと。苦手=どこか引け目を感じる様子。あまり差がないように思える。

 しかし、文章にしてみるとその違いは明らかだ。例えば、特定の人が嫌いか苦手かというのでは、ニュアンスが大きく異なる。嫌いの場合、その人を積極的に憎んでいるような印象がある。一方で苦手の場合は、相手と距離を取りたいという程度の意味合いだろう。でも、日々実際に使う言葉遣いを振り返ると、嫌いと苦手を混同し、それで自ら居心地悪い思いをしてしまう場面が多いのだ。

私は高校時代、苦手なだけだったはずの同級生を嫌いなのだと誤認して、冷たい態度をとってしまったことがある。結果、不用意に関係が険悪になった。「これでは敵を作るばかりだ」。そう思い、彼に対する態度を改めた。振り返ると、当時の自分は苦手と嫌いを区別できていなかったのだと思い至った。それ以来、本当に嫌いなのかそれとも苦手なのか、逐一自問するようにしている。

 どうしても波長の合わない人はいるものだ。しかし冷静に考えてみると、その人が嫌いということはめったにない。大抵は苦手なだけなのだ。嫌いと苦手、二つの使い分けを意識してからは、おおらかな気持ちで他者と交われるようになった。【上智大・清水春喜】

※この記事は、2023年10月12日に毎日新聞朝刊(東京都版)に掲載されたものです。

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