私の出身地は、東北の超がつくほどの田舎である。映画館もデパートもない。だだっ広い土地と、街を歩けば必ず知り合いとすれ違うほどの狭い世間。東京に行くのだって立派な旅行だった。
旅行するたび、憧れた。高層ビル群、すれ違う人びとが発するオーラ、すべてが常に最先端なところ。田舎にはないものがここには全部あった。ガイドブックを片手に抱え、東京のきらめく夜景を眺めながら「私は将来、ここで輝くんだ!」と信じて疑わなかった。
焦がれてやまなかったその東京に打ちのめされたのは、上京3年後の就活中のこと。どこかで自分は特別な存在だと思い込んでいた。でも実際は全く普通の人間だった。私のような地方出身者はどこにでもいて、企業側にとって私は、代わり映えしない就活生の一人でしかなかった。自分はちっぽけな存在だということを、まざまざと思い知らされた。
半面、そんな私の背中を押してくれたのもまた東京だった。さまざまな価値観をもつ人との出会いや経験を通して、多くのものに見て触れた。その過程で、自分が本当にやりたいことに気づかせてくれた。そして、私という唯一無二の個性を、私自身が一番大事にしようと思わせてくれたのだ。
東京は神秘的だ。望めば大抵のものは手に入るし、選択肢も多い。だけど甘くない。卒業後は、東京を離れ地元で就職する。人生で一番濃密で愉快な4年間を過ごさせてくれた街に、ありったけの感謝を込めて――。【上智大・太田満菜】