技術駆使し作品「仮想復元」
5日から代官山ヒルサイドフォーラム(東京都渋谷区)で、「ダ・ヴィンチ没後500年 『夢の実現』展」が開催されている。作品は東京造形大学(八王子市)の教員や学生、卒業生が共同で制作したものだ。【東洋大・佐藤太一】
昨年はレオナルド・ダビンチ没後500年の節目の年。これを機に同大では、「Zokei Da Vinci Project」が発足。ダビンチ研究の第一人者である池上英洋教授を中心に、教員、学生、卒業生など100人ほどが参加し、ダビンチ作品のバーチャル復元に挑んだ。
未完成品や欠損のある作品が多く、完全な状態で現存している絵画作品は16点のうち4点のみというダビンチ。これらの絵画作品をバーチャル復元し、全16作品すべてを展示するのは、世界初の試みだ。
誰もが知る「モナ・リザ」も、ニスによる黄変が修整され、青い空やベージュの肌がよみがえった。描かれていない右手人さし指の爪も、赤外線カメラで調査した下絵をもとに書き加えられている。
「最後の晩餐(ばんさん)」は、壁画であるにもかかわらず、通常板絵に用いる技法で描かれたこともあり、剥離が激しい。完全に消失してしまっているキリストの足先などは、弟子たちの模写をもとに再現した。会場では壁に映像として投影され、現存の状態から徐々に鮮やかな色を取り戻していく様子が楽しめる。
会場内でひときわ目を引く「東方三博士(マギ)の礼拝」は、一辺が2メートル40以上ある大きな作品のため、複数の学生が分割して作業を行った。この再現にはダビンチの時代にはなかった技術が役だった。バーチャル復元のため、作業はタブレット型端末iPadやパソコンで行われた。左利きだったダビンチの筆さばきを再現するため、学生たちは画像を反転させて作業したという。当時は下絵で終わった本作。色も塗られておらず、細部もはっきりしない。画面左端の青い服の男と馬を担当した棚橋愛美さん(同大造形学部美術学科4年)は、「ダビンチが残した馬のデッサンを参考にしようとしたが、正面を向いたものがなく、大学近くの乗馬場にも足を運んだ」と苦労を語った。
また、当時は実現できなかった両足を上げたポーズのブロンズ製騎馬像や、縮小模型や3DCG(立体コンピューターグラフィックス)によって再現された兵器などの工学系の発明、建築物など展示は多岐にわたる。
池上教授は「ダビンチは絵画だけでなく、グラフィックや機械、建築などデザインの人でもあった。美術とデザインの両学科がある本学の学生にとってはいい教材だ」と、プロジェクトの意義を語った。
世界初の試みも多く、搬入の際には、「うるっときた」という池上教授。ダビンチ研究者として、500年前に彼ができなかったことを実現して、恩返しができたような気持ちになったという。
最も展覧会を訪れてほしい層として、池上教授は中高生を挙げた。「展覧会を見れば、ダビンチはたくさん挫折をしたと分かる。万能の天才でなく、努力し、学ぶ謙虚な姿勢があった人。彼も自分たちと同じようなところからスタートしたと分かれば勇気が出る」
展示は今月26日まで。開館時間は午前11時から午後8時半まで(入館は午後8時まで)。入場無料。