12月1日は映画の日。暖房の利いた屋内での映画鑑賞も冬の楽しみの一つだ。しかし、数ある作品から何を見るか迷う人もいるのではないだろうか。今回はキャンパる記者6人が、自身の学部・専攻に関係するおすすめの映画を紹介する。気になる作品を見つけてほしい。(映画は公開中、またはDVDやウェブ等で鑑賞可能なもの)【まとめ、学習院女子大・渡口茉弥】
ビリーブ 未来への大逆転
ミミ・レダー監督(2019年公開)
発売・販売:ギャガ
常に正しいとは限らないルール
この映画の主人公は、ルース・ベイダー・ギンズバーグ。米最高裁の現最高齢判事で、しかも女性。彼女が若き日に関わった、ある裁判が重点的に描かれる。
当時米国では、介護に関する所得控除は、女性と異なり、男性はその一部にしか認められていなかった。「介護をするのは女性」という概念が影響していたためだ。ルースは、これが性差別にあたると主張する。
あまたの困難を乗り越え、ルースは勝利する。法による性差別を認めさせた、歴史的な勝利だった。
「ルールだから」という言葉に、もやもやとした感情をずっと抱いていた私。法学部に入って、その感情はさらに強まった。法学部で学ぶさまざまな法律の中には、あきれるようなものもある。社会の変化に追い付かず、足を引っ張っているような法律もある。
単にルールを守るだけでなく、それが本当に正しいのか考えること。間違っていると感じたら、それを主張すること。その一歩を踏み出す勇気を、この映画は与えてくれる。【東洋大・佐藤太一】
国家が破産する日
チェ・グクヒ監督(2019年公開)
配給:ツイン
経済軸に社会の縮図鮮明に
1997年にタイを中心に始まったアジア通貨危機。アジア各国で急激な通貨下落を引き起こし、韓国をも直撃した。この作品では国際通貨基金(IMF)からの資金支援をめぐる一連の騒動が、主人公のハン・シヒョンを中心に描かれている。
「国家破産まで残された時間は、7日間です」――。韓国の中央銀行である韓国銀行の通貨政策チーム長だったハンは、招集された幹部を前に国家破産の危機を訴えた。しかし彼女の切実な願いとは裏腹に、政府の対応は後手に回る。その後政府はIMFに救済を求めるが、政界や産業界を巻き込んだ国全体の混乱に発展していく。
作品内では切り捨てられる町工場の経営者などのストーリーも同時に展開され、社会の縮図を鮮明に表現している。
経済を学ぶものとして、社会に出る前の大学生にこそ、この作品を見ることを強くおすすめする。経済と政治、国民生活がいかに密接な関係で結びついているかを実感させられ、成長の糧になることは間違いない。【国学院大・原諒馬】
僕たちは希望という名の列車に乗った
ラース・クラウメ監督(2019年公開)
発売:ニューセレクト、クロックワークス 販売:アルバトロス
東西ドイツ分断、理解深める
舞台は、ベルリンの壁建設前の1956年の東ドイツ。ソ連の支配に反発して殺害されたハンガリー市民に対し、エリート高校に通う生徒たちは2分間の黙とうをささげる。
しかし、ソ連の影響下にあった東ドイツではこの行為は反逆行為とされ、彼らは首謀者を明かすよう言い渡される。仲間を密告しエリートへの道に進むのか、友情を選び大学進学を諦めるのか。生徒たちは人生に関わる大きな決断を迫られる。
実話をもとにしたこの作品は、東西ドイツ分断という厳しい時代を背景に描かれている。そんな時代の流れに異を唱え、信念を貫こうとする若者たちがいたことを、ドイツ文学を専攻する記者も初めて知った。葛藤の中、大人たちに立ち向かっていく生徒たちの姿には強く心を動かされる。
ベルリンの壁崩壊から今年で30年。注目を浴びることの少ない壁建設前のドイツを知る絶好の機会になる。【立教大・明石理英子】
容疑者Xの献身
西谷弘監督(2008年公開)
発売:アミューズソフトエンタテインメント 販売:ポニーキャニオン
天才たちが挑む難問
本作は物理学者・湯川学を主人公とする、東野圭吾による小説「ガリレオ」シリーズの一つ。明晰(めいせき)な頭脳で次々と難事件を解決していく湯川を悩ませたのは、大学時代の友人が関わる事件だった。
数学への情熱を持ちながら、不遇な日々を送っていた石神哲哉。そんな石神は、隣に住む花岡靖子に恋心を抱いていた。だが彼女の家族に起きた事件をきっかけに2人の関係は一変する。石神は容疑者となった愛する人を守るため、完全犯罪を企てるのだ。
身代わりとなり逮捕された石神は留置場の天井を見上げながら赤・青・黄・緑と4色の地図を描く。「いかなる地図も4色で塗り分けられる」。かつて多くの数学者たちを苦戦させた「四色問題」だ。
公開時、小学生だった記者は、まねをし図形を塗って遊んだ。大学で数学を専攻し、この命題と「再会」する。
「隣同士が同じ色になってはいけない」。石神のこの言葉の意味を知ったとき、「愛とは何か」が問われる。【津田塾大・畠山恵利佳】
オデッセイ
リドリー・スコット監督(2016年公開)
配給:20世紀フォックス映画
発売・販売:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン
植物栽培、新しい視点で
目が覚めたとき主人公マーク・ワトニーは火星に1人取り残されていた。この状況下であなたは死ぬしかないと諦めるか、それとも生きようとするか。マークは生きて地球に帰ると心に決めた。
火星での一番大きな問題は食料が足りないこと。そこで、植物学者でもあるマークは考えた。「火星に持ってきたジャガイモを種いもにしたら食料が増えるのではないか」と。数日後、芽が出た。そのようにして自給自足の生活を始めた。
大学の園芸学科で植物のことを勉強していても、教授が教えてくれるのはほんの一部。残りの大部分は未知なので自分で切り開いていかないといけない。研究はすぐに答えが分かるものではない。
彼は孤独に打ち勝つ強いメンタルと辛抱強さを持っていた。そして、この映画は将来の地球を表していると私は思った。植物が育つのは地球だけではない。工夫をすればどこでだって生育できるという、新しい学びのきっかけを私に与えてくれた。【千葉大・谷口明香里】
新聞記者
藤井道人監督(2019年公開)
発売・販売:KADOKAWA
新聞にできることを考える
「もう君たちは新聞を読まないだろうけど」。新聞学科の教授もこんなことをぼやく昨今。国民の無関心や権力による圧力に、さらされる活字メディア。知れば知るほど「新聞に何ができるのだろう」と思わずにはいられない側面を、包み隠さず見せてくれたのが本作品だ。
ある官僚の死を手がかりに、彼を慕う若手官僚と真相を追う女性新聞記者の運命が交差する。やがて2人は国が主導する大学新設計画に隠された「真実」に迫る――。フィクションだが「前に話題になっていたよね?」と現実を想起してしまうほどリアル。脚色であってほしいと願うほど権力側の描き方が、怖い。
結局新聞は何ができるか、との問いに答えてはくれない。しかし新聞記者は、多くの人が目をそらす現実にひたと向き合っていると教えてくれた。それは微力だけど、無力ではない。「誰よりも自分を信じ、疑え」。作中で新聞記者の父が娘に残した言葉は、私たちにも重く訴えかけてくる。【上智大・川畑響子】