読見しました。:タイムトラベル
「すいません、ちょっとわいふぁいのつなげ方を教えてくれませんか」。アルバイト中に聞こえた、しゃがれた声。目を向けると、ひとりのおじいさんが立っていた。少し震える手には、タブレットパソコンが握られている。
私がバイトをしているフィットネスジムには、祖父母くらいの年齢の人たちが毎日たくさん訪れる。なかには、このジムが誕生した時から約30年間通い続けているというお得意さんもいる。そんなお客さんとの会話が仕事中の楽しみだ。みなさん本当に好奇心旺盛で、年の差を感じないほど話が盛り上がることもある。
だがその日ばかりは、おじいさんの好奇心に驚いてしまった。というのも、うかがったらその方は御年96歳なのだ。なんと生まれは大正だという。令和という新時代に入り、平成生まれの私が、昭和を飛び越えて大正生まれの方と話す。まるでタイムトラベラーに出会ったような気分になった。
ネットにつなぐことができるようタブレットを操作してみせると、「ありがとうねえ」と笑いかけてくれた。でも、私の方がお礼を言いたいくらいだ。タイムトラベルを疑似体験できたのだから。
私も時をかけることができるだろうか。時代が変わっても年を重ねても、おじいさんのように、好奇心を持ちつづけていたいものだ。【筑波大・西美乃里、イラストは早稲田大・杉本汐音】