「トー横」大人の理解進めたい 「新聞」で若者が心情発信 月内創刊へ

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「トー横新聞」に託す思いを語る編集メンバーの「うにさん」(左)と種村さん(オンライン参加)

「トー横」と称される東京・歌舞伎町の広場や路地に集まる若者たちの思いや本音を伝えようと、「トー横新聞」の刊行を目指して活動している人々がいる。新聞作りにかける思いや創刊号の内容、発刊に際しての課題点などを取材した。【早稲田大・竹中百花】

偏見にさらされ続け

 「トー横」は、市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)や大麻などの薬物乱用、暴力や性交渉など非行の温床としてメディアやSNS(ネット交流サービス)などでたびたび話題になる。ここに集まる中高生をはじめとする若者たち、いわゆる「トー横キッズ」は、いったいどんな問題や思いを抱えて集まるのか。その思いは語られることがないまま、冷たい偏見の目にさらされ続けている。

同じ歌舞伎町に事務所を構える公益社団法人「日本駆け込み寺」は、こうした現状を変えようと、居場所のない若者を受け入れる「歌舞伎町みらいカフェ」の運営や、無料相談の受け付け、歌舞伎町の清掃活動、シェルター提供などの活動を幅広く行っている。代表の天野将典さんは「何かしら心配事を抱え、どうしていいか分からない不安を話していたその子たちが、しゃべっていくうち夢を語ってくれるようになって、最終的にはトー横を卒業できればいい」と、活動を通じた目標を語った。

キッズら執筆、編集

 そして今、この団体が力を入れて取り組んでいるのが7月下旬に創刊を予定しているトー横新聞だ。ページ数、発行部数は未定だが、通常の新聞と同じサイズで発行する計画だ。

この新聞ではトー横キッズたちが作り手となって、自分たちが著名人らと若者をとりまく課題について対談した内容や、トー横に集まる若者たちが今抱えている悩みの発信を主な内容とする。創刊号では東京都議会議員との会合や、トー横キッズ同士の座談会の内容を掲載する予定だ。

 現在の編集メンバーは15~25歳の5~6人で、元トー横キッズや、今もトー横に通っている人など、なんらかの形でトー横に関わっている者たちで構成されている。取材交渉や実際の取材、記事執筆、編集などの作業はすべてメンバーが主体で行っているという。新聞を作るきっかけとなったのも、主要メンバーの一人が「自分たちみたいな子どもが発信する新聞を作りたい」と、天野代表に提案したことがきっかけだった。

行政機関にも配布へ

 「新聞」という形式を取ったのは、SNSにあまりなじみのない大人世代に手に取ってほしかったことが理由だ。天野代表は「子どもたちというより大人たち、制度を作る側の人、児童相談所の人、子育てをする親や保護者に一番見てほしい」と言う。国の省庁をはじめとした行政機関や教育機関にも配布する予定だ。

 新聞作りに携わる理由について、編集メンバーの一人で、トー横キッズの相談相手として現地で活動してきた「うにさん」は「SNSだけでは届かない層にもトー横の正しい情報を伝えたい」と話す。

 トー横キッズといえばニュースやSNSでのイメージからか、人に迷惑をかける、社会から外れた存在と見なされることが多い。しかしそれは若者たちと日々交流する「うにさん」から見れば、実像を知らない人が抱く偏見だ。「そんな大人たちの偏見がなくなったらいいなと思います」

 トー横キッズの中には、学校に行きたくても行けない子や、家にも学校にも居場所がない子など、「社会から外れるしかなかった」子たちがいる。そんな実情やそれぞれが抱える問題、思いを自分たちの手で伝えていこうという取り組みが、まさに「トー横新聞」の刊行だったのだ。

 この「トー横新聞」は、刊行に際してかかる印刷代や配送代、取材時の交通費などをすべて3~4月に実施したクラウドファンディングで募った資金でまかなっている。しかし集まった資金は目標を下回り、資金的には大きな課題を抱えている。今後もさらに資金集めを行う予定だという。

意味なき締め出し策

 「トー横」という名の元になった歌舞伎町の新宿東宝ビル横のシネシティ広場は現在、完全に封鎖されている。そのため、ここに居場所やつながりを求めて集まっていたトー横キッズたちは移動を余儀なくされた。しかし、そんな行政の対応は意味をなさず、若者らは東京都内、東京近郊の繁華街などに移動して集まっているのが現状だ。

 こうした対応に元トー横キッズの現役大学生で、現在は日本駆け込み寺で子どもたちの相談に乗りながらトー横新聞の編集メンバーとして活動している種村豊さん(20)は「問題に対して付け焼き刃的な対応をするのではなくて、ちゃんと一人一人と向き合って、本当の問題は何なのかを考えてほしい」と語る。

 ある日突然の不幸に見舞われたり、居場所を失ったりする危険性は誰もが抱えている。トー横新聞の発刊は、種村さんが言うような場当たり的な行政の対応を少しずつ変え、行き場のない若者を生まない根本的な対策の必要性に、より多くの人が気づくきっかけになっていくかもしれないと思えた。

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