「政策を提案して、提案して、提案して、実現させていく」。選挙カーのスピーカーからリズムよく流れる声。聞き取りやすいその声に、街を歩く人は思わず振り返ってしまう。声の主は、昨年選挙権を得たばかりの鈴木拓理さん(18)だ。
鈴木さんが声を張り上げていたのは大阪市の繁華街、梅田の街頭だ。今月10日に投開票された参院選の大阪選挙区に国民民主党公認で出馬し、健闘むなしく敗れた大谷由里子さんの後援会長として、選挙戦を裏から支えていた。
鈴木さんは大阪生まれの大阪育ちで、同党の学生部代表を務めている。大学で政治学を学ぶことを目指し、現在は浪人中だ。受験勉強と並行して選挙活動に携わった。
「どちらかと言えば政治に関心の無い家に育った」という鈴木さん。そんな彼が政治と深く関わるきっかけとなったのは、高校2年生だった2020年5月。新型コロナウイルスの感染急拡大で休校措置が取られた際、同学生部に所属した。「コロナや若者対策に関する玉木雄一郎代表の姿勢に強く共感した」ためだという。「次の世代が安心して受け継げる国を作りたい」。自ら政治家になる未来を思い描くようになった。
参院選でサポートした大谷さんとの出会いは今年の2月。吉本興業で長くマネジャーを務め、現在は人材育成業を営む大谷さんが知人を介して同学生部所属の鈴木さんを知り、「夏の参院選に出るから手伝って」と声をかけたのが始まりだった。
そんな鈴木さんが、大谷さんの支援団体である後援会の会長になることが決まったのは、参院選公示5日前のことだった。前任者が急きょ、参院選に出馬することになり、後援会事務局の話し合いで鈴木さんが後任に選ばれた。当初は、大谷さんと2人きりで街頭活動していた鈴木さん。「びっくりしたが、不安はなかった」と振り返る。後援会事務局長を務める下橋佑治さん(45)も「鈴木さんに参加してもらい助かっている。演説の内容も党の政策をしっかり理解している」と鈴木さんの能力を評価した。
選挙期間中は、街頭でのビラ配りや支持の呼びかけなどで「後援会スタッフやボランティアが活動しやすい環境を作ることに一生懸命取り組んだ」という。またSNS(ネット交流サービス)などを駆使し、候補者の予定やイベント情報を発信するだけでなく、有権者と双方向でやり取りできるようにした。大谷さんや同党を身近に感じられるようにするための工夫だ。大谷さんは「他のどんな偉い後援会長だってできへんで」と鈴木さんの手腕を絶賛した。
今回の選挙戦では、街頭演説で若い世代が選挙に行く意味を必死に伝えた。また、選挙を裏から支える人の大変さを身をもって実感したという。「将来、選挙に立候補した時は、このような裏方の人たちへの感謝の気持ちを絶対に忘れない」と鈴木さんは話している。【上智大・沖秀都】