じめじめ気分、読書でカラッ

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 梅雨はじめじめした天気で気持ちがふさぎ、家で鬱々とした日々を送ってしまいがちな季節。そこで今回は、読了後に前向きな気持ちになれるお薦め作品をキャンパる記者6人が紹介する。気分転換を兼ねて書店に足を延ばし、本の森で宝探しをするワクワク感を思い出してみてはいかがだろう。きっと心がカラッと晴れやかに――。(書名、著者名、出版元、発行年、税込み価格の順。漫画の書影・発行年・価格は第1巻のもの)【まとめ、早稲田大・榎本紗凡】

1「恋するラジオ」 スージー鈴木(ブックマン社) 2020年 1760円

 本作品は、音楽評論家のスージー鈴木さんが自らの音楽人生を赤裸々に記した「音楽私小説」。「あなたが、人生の最期に聴きたいのは誰の曲?」という、帯の文句にひかれた。

 物語は2039年、主人公が72歳で亡くなった場面から始まる。生と死のはざまの世界で「恋するラジオ」を手にした主人公。音楽を愛した者だけに渡されるそのラジオの助けを借り、主人公は人生の中で印象的だった音楽や街に再び出合う旅に出る。

 物語は14の話からなり、時代を彩る名曲の数々から、その時々の筆者の心情を読み取ることができる。日常の中で何気なく聞いている音楽。でもその音楽が、その時代を思い返すきっかけになったり何かの糧になったり、人生に深く関わっているということが本作品を通じて分かる。

 また、点々とちりばめられたエピソードが最後に線としてつながる展開には、胸がすくような気持ちになった。自分なら人生の終わりにどんな曲に乗せて、何を振り返るだろう。そんなことを考えさせられる一冊だ。【駒沢大・根岸大晟】

2「恋は雨上がりのように」 眉月じゅん(小学館) 2015年 607円

 人生にも雨宿りは必要だ。疲れた時、逃げ出したい時、その雨がやむまで雨宿りをしよう。

 17歳の橘あきらは将来有望だった陸上部の元選手。練習中のケガが原因で陸上をやめていた。そんな彼女が恋したのが、45歳でバツイチの子持ち店長、近藤正己。やがて2人は互いにひかれ合う。

 そして近藤は、走ることを諦めたあきらの姿に、かつて小説家になる夢を諦めた自分を重ねる。葛藤の中、再び夢に向かって歩き出す2人の恋模様は、まるで雨宿りした後の晴れ間のような爽やかさを感じさせる。

 人は誰しも夢を抱き、その夢を果たすために、もがき苦しむ。私にも夢がある。しかし、その夢をかなえるのは非常に困難で、時にはくじけそうになる。本書は、夢を諦めた人、諦めかけている人にぜひ読んでほしい一冊だ。人生、予期せぬ困難や苦痛に見舞われることもある。しかし、やまない雨はないのだ。いつかやむその時まで雨宿りをすればいい。雨上がりにはきっと虹がかかるはずだから。【中央大・朴泰佑】

3「心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣」 長谷部誠(幻冬舎文庫) 2014年 737円

 一見華やかな職業に見えるプロサッカー選手も、厳しいレギュラー争いやプレーに対する批判などによって、精神的にダメージを受けることが多くある。そのような状況下で平常心を保ち、最高のプレーをするにはどうしたら良いのか。

 本書では、日本、ドイツで活躍し日本代表主将も務めた長谷部誠選手が、長年のキャリアで身につけた「心を整える」ためのヒントが紹介されている。例えば、ドイツ人は日本人に比べて他人の目を気にしない。そのためドイツでは、周囲の反応を気にしすぎないように過ごし、精神的に楽になることができたそうだ。

 中学生の頃、心配性の私は周囲の目を気にしすぎるあまり、ささいなことに対しても緊張していた。そんな時に恩師が紹介してくれたのがこの本だ。本書から意識的に心の乱れを鎮めることの大切さを学び、心の中の雑音をコントロールできるようになった。心がすっきりとしない時は誰にもある。本書が紹介する習慣を実践すれば、気持ちが楽になるのではないか。【上智大・古賀ゆり】

4「農ガール、農ライフ」 垣谷美雨(祥伝社文庫) 2019年 759円

 私は、女性のさまざまな生き方を描く垣谷美雨さんが大好きで、この小説を図書館で見た瞬間、読みたいと思った。カラフルな表紙とポップな題名から、農業女子の活躍を描いた明るい物語かと思いきや……。

 32歳の主人公・久美子は派遣切りにあったその日、同居中の恋人から別れを告げられ、職ばかりか彼氏、家まで失ってしまう。そんな久美子は、輝く農業女子を特集したテレビ番組を見て「これだ!」と思い、就農を決意する。しかしその後も試練の連続。どん底の状態が続きすぎて、ハラハラしながら、引き込まれるように読み進めてしまった。

 この小説が描くのは、現在の日本では、就農と女性の自立が、いかに難しいことかということだ。その一方で、女性が自分の力で人生を切り開くことの大切さを感じた。

 どんな壁にぶち当たっても、「まだ笑えるぞ、自分」と自らを励まし、決してへこたれない久美子。「自分も頑張ろう」という気持ちになった。読めば、元気と勇気をもらえること間違いなし!【明治大・奥津瑞季】

5「舞台」 西加奈子(講談社文庫) 2017年 660円

 これは、自分の家庭環境や過去の出来事から周りの目を気にしすぎてしまう主人公の葉太が、本当の自分を取り戻していく物語だ。

 ささやかな夢をかなえるため、米ニューヨークに旅立った葉太。しかし旅行初日、全財産が入ったリュックを盗まれてしまう。それでも自意識過剰な葉太は「哀れなはしゃぎすぎた観光客」と周りに思われることを恐れ、助けを求めない。知り合いのいない土地で極貧生活を送る葉太は、周囲に合わせて自分自身を演じてきた過去を振り返り、その苦しさから逃れたいと思うようになる。

 この小説を読んだ当時高校生だった私は、人の目ばかり気にする葉太を「かっこ悪いな」と思った。でも他人の目など気にしない自由にあふれた街を舞台に、自分自身を縛ってきた意識から解放されていく様子には、どこかうらやましさを感じた。

 そんな憎めない葉太が、西加奈子さんの爽快感あふれる文体で表現されている。じめっとした季節にぜひ読んでほしい作品だ。【日本女子大・安藤紗羽】

6「野心のすすめ」 林真理子(講談社現代新書) 2013年 990円

 「野心」という言葉に対して、あなたは肯定的、否定的どちらの印象を持つだろうか。私はどちらかというと、否定的な印象だった。

 野心があること自体が悪いとは思わないが、それをむき出しにするのはカッコ悪い気がしていた。でも、この人生論を読んで「野心を持ち、隠さない生き方」を知った。そして、はじめてカッコいいと思ったのだ。

 著者である作家の林真理子さんは、自他ともに認める野心家だ。しかし彼女は本書で野心を持つに至るまでの自分の記憶、例えば電気コタツで泣き続けたどん底時代を細かく描写する。不幸な境遇から目を背けず、時に自分を笑い飛ばしながらも、未来への原動力にしてきた彼女の姿があった。

 ちなみに林さんには、米国の長編時代小説「風と共に去りぬ」を主人公・スカーレットの目線で描き直した小説もある。野心を持ち、全力で生きるスカーレットは私も憧れだ。雨ばかりで憂鬱になるこの季節を、彼女たちが持つような強くて美しい野心で切り抜けていきたい。【国学院大・青木花連】

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