「現状維持は後退だ!」。そう手書きされた1枚の紙。高校時代に所属していた生徒会の部屋の壁に、無造作に張られていた。元はウォルト・ディズニーの残した名言だという。しかし、最初目にしたときに感じたのは、「現状維持で何がいけないの?」という疑問だった。
高校では決まりごとの見直しに意欲的な生徒は少なく、学校祭の企画も「去年と同じでいい」という声が多かった。加えて、就職や進学でも安定重視の地元志向が親世代で根強く、変化の少ない環境に身を置くよう求める無言の圧力を感じていた。その影響もあってか、現状維持がなぜ後退につながるのか分からず、戸惑ったのを覚えている。
転機は昨年、大学2年の時。コロナ禍で授業がすべてオンラインになったのを機に、私は実家のある鳥取県に帰省した。パソコンで受講する以外、特に新しいことを始めるわけでもなく、まさに「現状維持」の1年間。心身ともにゆったりと過ごせたが、今年4月に東京に戻ってきた私を襲ったのは、激しい後悔だった。久しぶりに再会した友人らは新たな挑戦と経験を重ね、一歩二歩、成長していたことが分かった。コロナ禍を言い訳に行動しなかった自分が恥ずかしくなった。
社会は変化し続けており、対応するには少しずつでも「変化」していこうとする姿勢が大切だと気づいた。私はその後キャンパる編集部に入り、新たな環境で自らの変化を楽しんでいる。手書きのあの名言は、今では私を奮い立たせる言葉になっている。【早稲田大・尾崎由佳】