すたこら 鍋の力

すた・こら

 きょう11月30日は、「11」(いい)、「30」(みりん)という語呂合わせから、「本みりんの日」と定められている。自転車に乗っていると風がほおを刺すような季節になってきた。この時期に食べたくなる、みりんの欠かせない料理といえば、何といっても鍋だ。

 私が幼稚園児の頃から我が家では、冬になると、家族がそろう休日の夕食は必ず鍋物。幼い頃はそんなお決まりの料理があまり好きではなかった。具材は毎回代わり映えのしないものばかり。定番は、もやしと鶏肉がたっぷり入った寄せ鍋。休日の家事の負担を少しでも減らしたい、母の意向だ。クリスマスにも出された時には、絶句した。私にとって鍋ほど「特別」感のない料理はなかった。

 ところが大学に入ると、自宅暮らしなのに家族と鍋を食べる日が急に減った。休日の夜も友達との外食が多くなったからだ。「夜ごはんいらなくなった」と、当日に連絡することもしばしば。そんな時は、家族がつついた後の鍋を翌朝、一人でいただく。用意してくれていた母への申し訳なさを感じながら食べる鍋は、具材もまばらで寂しい。

 コロナ下の外出自粛により、家族全員で鍋を囲む機会がまた増えた。家族と共有する、具材が煮えるのを待つ時間。「もう煮えたよ」「どの具材をとった?」。会話が自然と生まれる。相変わらず具材はいつも同じ。それでも、今は鍋が好きだ。他の料理にはない、家族をつなぐ「特別」な力が鍋にはあるのだから。【早稲田大・吉村千華】

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