毎日新聞 2021/3/2 東京夕刊
「好きな人いる?」「恋人はいる?」。バレンタインデーも近くなった夜、サークルの同性の先輩3人と、オンラインの恋愛トークで盛り上がった。
「彼氏ができたの」。先輩の一人はうれしそう。見せてもらった写真には整った顔立ちの男性。「おめでとうございます!」。素直に祝福したところ、大爆笑された。話をよく聞くと写真に納まっているのは、とある芸能人だった。芸能界に疎い私はこうして時々からかわれる。なんだ、と少しいじけた気分になった。
しかし先輩がその芸能人を好きなのは本当のこと。思いは一方通行でも、彼について考えることが幸せなのだと話す。他の2人の先輩も、やはり芸能人を応援することにはまっている。付き合っている人はいないが、それで実生活は十分充実しているらしい。
私に先輩たちほど熱心に推せる芸能人はいない。実生活では、コロナ禍の寂しさを紛らわすために、身近な家族や友人に頻繁に頼ってしまう。そんな私には、絶望的と思える芸能人との距離を受け入れ、心の支えにできる先輩たちは強いと思えた。きっと自分の癒やし方をよく理解しているのだ。
今、私はある人に思いを寄せている。その人は私の方を振り向かないだろう。しかし、縮まらない距離を切なく思う必要はないのだと、先輩たちは私に教えてくれた気がする。見返りを求めずその人の幸せを願う強さを持ちたい。そうすれば私も、人に頼らず孤独を癒やせるようになるだろうか。【一橋大・鹿島もも】