読見しました 自分らしさ

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 「我思う、故に我あり」。世の中のすべては疑わしく思えても、そう疑う自分は確かに存在するという意味だ。フランスの哲学者であるデカルトは、何を思いこの言葉を残したのだろう。

 夏が過ぎ、就職活動が本格的に始まった。自分に合いそうな企業を探していく中、就活支援サービスの動画広告で、こんなフレーズをよく耳にする。「自分らしい就活を」「自分らしさをアピールしよう」――。でも、自分らしさって何だろう。

 思えば「君らしくない」とはよく言われてきた。中学・高校で6年続けたテニスをやめ、大学で音楽を始めた時。バーでアルバイトを始めた時。たばこを少し吸うようになった時。自分がしたいからしているだけなのに、らしくないと言われる。就活でもそうだ。農業に興味があると友人に相談したら、また言われた。「君らしくない」と。

 他人が自分の「らしさ」を定義し、押しつけようとしている。これではまるで「他人が我を思う、故に我あり」だ。それをうのみにしてしまえば、他人が作る「らしさ」というおりの中に閉じ込められてしまう。そのおりから抜け出せた時、人は新たな自分になれるはずだ。広告

 「自分らしさ」が何か、今はまだ答えが出せない。でも「我、自分らしさを思う。故に我あり」でいたい。【独協大・田中飛路、イラストは筑波大・西美乃里】

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