新型コロナウイルスの世界的大流行によって、海外留学中の大学生は人生を左右する決断を迫られた。留学は移住とも旅行とも違う。彼らは、移住より現地での生活経験が浅い一方、旅行者のようには簡単に帰れない。そんな不安定な立場にある留学生たちは、この激動の数カ月をどのように過ごしていたのだろうか。
キャンパる編集部が5月上旬に行ったアンケートには、2019年度中に欧米やアジアなどへ留学した日本の大学生139人の声が集まった。彼らがまず悩んだのは、帰国か、残留かの選択。5月11日時点では、約8割の115人が帰国していた。帰国の決め手としては、約半数が大学からの要請を挙げたほか、「ネパール空港封鎖の予告」(米国とネパール・駒沢大)という声もあった。
泣く泣く決めた帰国。だが、帰国便に乗るまでも苦労は絶えなかった。「国際線停止措置の発動が発表から2日後だったため、帰るチャンスが翌日しかなく、航空券の争奪戦に。チケットが取れても一晩で家の解約や荷造りをしなければならなかった」(ポルトガル・東京外国語大)。「予想外の事態が相次ぎ、飛行機の予約キャンセルを1週間の間に4回行うはめになった」(フランス・日本女子大)。「移動手段で融通が利かず、公共交通機関使用が増えたためかえって(感染の)リスクにさらされた」(スウェーデン・慶応大)――。
日本に着いても「PCR検査の結果待ちのため会議室に9人で24時間過ごした。毛布などの貸し出しはなく、食事もおにぎりとパン、お茶のみ」(ノルウェー・北海道教育大)。さらに空港と実家が遠い学生には、「隔離場所の確保、その隔離場所までの移動」(英国・信州大)などの問題が山積していた。
その後全員が直面したのは、復学するか否かの決断。「留学先と日本の大学のオンライン講義が同時進行」(ポーランド・武庫川女子大)という人もいる一方で、時差などを理由に留学先のオンライン講義を諦めた場合もある。また「来年度に留学をし直す場合は、再度学内選考を通過せねばならない。大学生活の一番重要なイベントになるはずの留学がたったひと月で帰国を余儀なくされ、再開の見込みもなく、正直なところ絶望している」(ロシア・上智大)と、環境の激変に翻弄(ほんろう)された声も聞こえた。
その一方、残留を決めたのは24人。国境封鎖で身動きがとれなくなったことや、「(帰国時の)長時間の移動による感染リスクが高すぎる」(ノルウェー・東京外国語大)ことなど、やむを得ない事情による残留がほとんど。今も大使館や日本の大学と情報交換しつつ、現地の混乱の中で学業を続けている。逆境にめげず、異国でさらに「新たな勉強分野への挑戦」(オランダ・筑波大)を始めた人もいた。
帰国者の中にも、「人生設計を考え直し、再び留学に行けるように準備を進める」(ベラルーシ・上智大)と、懸命に前を向く人はいる。記者も3月末まで7カ月間ロシアに留学していたが、やむなく帰国した。日本でも、留学先のオンライン講義を受講し続けている。転んでも、ただでは立ち上がらない。逆境をもチャンスに変えようと進む同世代のエネルギーに、元気をもらった。【筑波大・西美乃里、イラストも】