13日公開予定の映画「屍人荘の殺人」をはじめ、多くの話題作をプロデュースしてきた臼井真之介さん(33)。原作本を読み、すっかり物語のとりこになった記者が、映画づくりに対する熱い思いを聞いた。【学習院女子大・田中美有、写真は早稲田大・今給黎美沙】
13日公開予定の映画「屍人荘の殺人」をはじめ、多くの話題作をプロデュースしてきた臼井真之介さん(33)。原作本を読み、すっかり物語のとりこになった記者が、映画づくりに対する熱い思いを聞いた。【学習院女子大・田中美有、写真は早稲田大・今給黎美沙】
原作生かし面白さ追求
映画を一から生み出す仕事をしている臼井さんが映画会社に興味を持った理由は、好きなことを仕事にしたかったからだという。父親が音楽業界に勤めていたこともあり、幼い時から好きなことを仕事にする人の背中を見ていた臼井さん。そんな働き方に憧れを抱く。
学生時代は長期休みの度に、バックパッカーをしながら世界中を旅していた。その国を訪れる前に、行く先々を舞台にした映画を見ていた。国の雰囲気を知ってから向かうのが楽しみだったそうだ。
そんな中、就活時期に見た南米が舞台の映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」をきっかけに「改めて映画の舞台となった土地に行ってみたいという思いに気づいた」。その思いが映画業界という選択肢を増やした。そこから映画会社を志望し、念願がかない東宝に入社。映画プロデューサーとして活躍している。
臼井さんの主な仕事は映画の企画、そしてプロジェクト全体をまとめること。どんな作品を映画にすれば面白いか、予算や脚本家の指名、キャストの打診まで幅広く手掛ける。自分が面白いと思った小説から企画することもある。
例えば、今回の「屍人荘の殺人」では、「タイトルからグロテスクな印象や怖いという気持ちを抱き、見ることをためらってほしくなかった」と語る。そこで脚本を「TRICK」シリーズや「金田一少年の事件簿」を担当した蒔田光治さんに依頼。ミステリー作品の緊迫した場面と息抜きの場面の両方をバランス良く描く。今回も原作小説の本格ミステリーを壊すことなく、クスッと笑える場面を盛り込んだ脚本を制作した。
臼井さんのプロデュースした作品には小説原作のものも多い。「自分で読んで最初に面白いなと思ったポイントは、僕以外の読者も面白いと思っている部分だと思う。そのポイントは外さないように作っていきたい」と話す。
文章で表す世界と映像の世界は同じ物語でも与える印象も変わってくる。臼井さんは文章から映像へ変換する際に「上映時間が2時間前後に限られている中で、どれだけ最初からキャラクターを印象づけたり、主人公に感情移入してもらったりすることができるかを大切にしている」。「屍人荘の殺人」では、見ている人が分かりやすくなるように登場人物を一部変更。原作の軸はぶらさず、限られた時間の中で最大限観客が楽しめるよう工夫をしている。
そんな彼がプロデューサーをする上で大切にしていることがある。それは、「奥さんにつまらなかったね、と言われる作品は作らない」ということ。映画は観客のものであり、楽しんでもらうことが最重要課題。「一番身近な存在の人にまず楽しんでもらえるかを考えて企画するようにしている」と熱く語った。
映画という2時間のドラマの中にはプロデューサーの思いが至るところに詰まっている。記者も将来、臼井さんのように人を楽しませることができる仕事に就きたいと強く感じた。ひとつひとつをこだわりぬく臼井さんの今後の作品が楽しみだ。
■ 「屍人荘の殺人」
原作の同名小説は今村昌弘のデビュー作。新人作家では異例の国内ミステリー賞4冠を達成。湖畔のペンション「紫湛荘」を舞台にした連続殺人事件を描く。監督は木村ひさし。出演者に神木隆之介、浜辺美波、中村倫也といった個性豊かな俳優陣が並ぶ。
■人物略歴:臼井真之介(うすい・しんのすけ)さん
1986年神奈川県生まれ。明治大卒。2009年、東宝入社。現在は映像本部映画企画部に所属しプロデューサーを務める。過去のプロデュース作品に「怒り」(16年)、「亜人」(17年)、「散り椿」(18年)など。学生時代、自分でバスケットボールサークルを設立するなど、スポーツが趣味。