親から名前を授かって、もうすぐ20年がたつ。今まで自己紹介するたびに、珍しいね、かわいいねと言われ続けてきた。そんな周りの声に「名前はね」と自嘲気味に返してしまう。情けないけれど、これが今の私。
小学生の頃は、「しずく」を名乗るのが誇らしかった。ちょっと目立つような名前でも、それに恥じない特技があったから。当時、夢中だったのは、想像を膨らませて絵にすること。学校の休み時間には、らくがき帳を広げ、思うがままに鉛筆を走らせた。すると数人の友だちが駆け寄ってきては、口々に褒めてくれた。「絵のうまいしずくちゃん」。そう認めてもらうことで、特別な名前を背負う私自身も、秀でた特別な存在なのだと思うようになった。
しかし、そのうぬぼれもつかの間。中学校でも趣味程度に絵は描いていたが、勉強の忙しさもあり昔ほど熱中できなくなった。悩んだ末に芸術系の高校を受験するも、不合格。自信の喪失とともに、自分の名前にまで嫌気がさしていった。
どうしたらかつてのように、自信を持って私らしく振る舞えるのだろう。過去に思いをはせては、今の無力さにがくぜんとする。あの頃は紙と鉛筆さえあれば、自分の強みを表現できたのに。
「名は体を表す」とはいうけれど、そこにはまだ到達していない。人目を引く名前だからこそ、それに見合った自分でありたい。今は貪欲に、私らしさを追い求めている最中だ。再び胸を張って「しずく」を名乗れるように。【東洋大・荻野しずく】