学生のための政策立案コンテスト 議論にドキドキ、政治にワクワク
7月に行われた参院選の投票率が50%を割るなど、社会や政治課題に対する日本人、特に若者の関心の低さが近年問題視されている。一方でこの夏、全国から集った82人の学生が一つのテーマについて真剣に議論し、本格的な政策立案を行った。8月25日から9月1日の1週間かけて、国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区)で行われた「学生のための政策立案コンテスト2019」を取材し、課題に向き合い続けた彼らの声を聞いた。【上智大・川畑響子】
全国から82人
21回を迎えた今年のテーマは「多文化共生」。昨年の冬に入管法が改正され、日本も外国人との共生を考える必要に迫られている。「『社会統合』の意味を明らかにした上で、日本における定住外国人の社会統合を達成する政策を立案せよ」。このミッションに基づき、全20チームが7泊8日で議論を重ね、政策案を発表するのがコンテストの趣旨だ。
各チームは、コンテストで初めて会った4、5人で構成され、大学も学年も異なる。審査員は当分野の最前線にいる専門家や官僚の人たち。優勝チームには賞金40万円と官庁への政策提言権が与えられる。
参加した学生たちは倍率3倍を超える論文選考を通過し、北海道から九州まで全国各地から集まった。「移民問題に関心がある」「将来政治に携わりたい」「大学では真剣に議論する場がなくて」などと参加した動機はさまざま。主催する学生団体GEIL(ガイル)で代表を務める井口彰太さん(東京大2年)は、「社会課題に関心がある人たちが真正面から議論できる場を提供したい」とコンテストの意義を強調する。
の予算案で税金を使えるの?」「国レベルの政策でどこまで具体的にすべきかな」「空き家を文化交流の場にするのはどう?」。記者が訪れたのは、4日目と6日目の戦略策定会議。問題解決の糸口を政策に落とし込もうと、活発な議論が繰り広げられていた。6日目は翌日の予選プレゼンテーションに向け、早朝5時まで会議を行うチームも。夜を徹し、構想を詰めていく。
現場に赴きインプットする機会の多さも、このコンテストの特徴だ。3日目には東京・霞が関の官庁や、問題の現場である地方自治体、出入国在留管理局などを訪問。職員から取り組みや諸課題の説明を受け、政策立案の実態や当事者の生の声を目の当たりにする。
さらに、事前に勉強を重ねたGEILのスタッフが、分厚い資料集の作成や議論の進行を通じて、彼らの知識や見方を補強する。参加者は日々多角的な視点に触れることで、問題理解を深めた。
「原因が多岐にわたりすぎている」「頭の中の考えを言葉で共有し、さらに4人で合意形成するのが難しい」などと、異なる価値観をすり合わせ、時には妥協点を探ることに頭を抱える学生たち。それでも、「こんなにも考える軸が多様なのが面白い」「同じ問題意識を持った人たちと議論できるのがうれしい」と、むしろワクワクする姿が印象的だった。
最終日は決勝プレゼンテーション。予選を通過した4チームの中から見事優勝したのは、社会を「大きな学校」として捉え、文化理解や日本語教育をさまざまな場面で促進する政策を提言したチーム。「社会統合の意味をとことん考え、その理念に合致するように政策案を考えました」とメンバーたち。多文化共生に理解のある企業を「カラフル企業」と認定して外国人の就職活動に役立てるなど、具体的な施策も評価された。
会課題に向き合った日々で、学生たちは何を感じたのだろうか。「やるせない気持ちにもなるけれど、問題意識が高まった」「きっと政治の場ではもっとさまざまな事象が絡み合っていて、それを考えることにワクワクする自分もいる」と発見や決意を新たにする参加者たち。また、「世間知らずだけど、学生だからこそ勇気を持って提案できる」「こういう人たちと日本の将来を考えたい」と、力強い言葉を語ってくれた。
GEIL代表の井口さんは、「山積する問題に対して国民があまりにも客体化している現状がある。たとえ理想でも、それを思い描き、実現のためにどう協同していけるかが重要ではないか」と言う。参加者もスタッフもコンテスト限りではなく、今後も一緒に課題に立ち向かえる仲間でありたいと願っている。
社会はあまりにも複雑で、目をそらしたくなることも多い。それでも果敢に立ち向かう同世代の姿に、記者も刺激を受けた。若者が語り合うことで一歩ずつ、より良い社会を築けると確信できるコンテストだった。